6月24日、モスクワで緊急テレビ演説をするプーチン大統領。
Kremlin.ru/Handout via REUTERS
6月24日、エフゲニー・プリゴジン氏が率いるロシアの民間軍事会社ワグネルが、南部ロストフ州のロシア軍施設を支配したと主張した。この事態を受けて、ロシアが内戦状態に陥るのではという緊張感が先週末、一気に高まった。その後、プリゴジン氏は首都モスクワへの進軍を停止したが、今後この問題がどう転じていくかは、全く分からない。
そのわずか1週間前、ワグネルの本部があるロシア第二の都市サンクトペテルブルクで「サンクトペテルブルク国際経済フォーラム」(SPIEF)が開催されていた。SPIEFの場でウラジーミル・プーチン大統領は、欧米を断罪する一方、非欧米諸国との経済的な連携を強める旨を強調するなど、ロシア国民を鼓舞する強気の演説をしたばかりだった。
プーチン大統領にとってSPIEFは、ロシア国民に対して非欧米諸国内で主導的な役割を果たす自らの姿をアピールする舞台となるはずだった。とはいえ、中国やインドをはじめとしてさまざまな国が参加したものの、参加者自体は激減した。
実際に、プーチン大統領が主張するほど、ロシアと各国との絆は深くないようだ。
プーチン氏のロシアをめぐる中国、インドの立場
インドのモディ首相と会談するプーチン大統領。2022年、上海協力機構(SCO)首脳会議にて。
Sputnik/Alexander Demyanchuk/Pool via REUTERS
例えば、中国とインドの立場は明快だ。2022年2月のウクライナ侵攻以降、両国はロシアとの間で貿易を急拡大させたが、それは安価なロシア産原油の輸入量が増えたためだった。もちろん両国ともロシア向け輸出を増やしたが、その量は輸入に比べれば圧倒的に少ない。安い原油が入手できるからこそ、両国は対ロ貿易を拡大した。
もちろん、中国とインドにロシアと対立する気はない。同時に、中国とインドは欧米と対立する気もない。中国とインドは、ロシアと欧米との間でバランスを取りながら、是々非々で自らの国益を追求している。中東の産油国もまた、原油相場の動向に関してはロシアと密接な関係にあるが、再エネ取引などでは特にヨーロッパとの関係を重視している。
それに、これまでロシアと密接だった隣国カザフスタンのカシムジョマルト・トカエフ大統領は、今回のSPIEFに参加しなかった。トカエフ大統領はロシアのウクライナ侵攻に対して批判的である一方、欧米との関係を重視する。
プーチン大統領がロシア国民に喧伝するほど、非欧米諸国の多くが親ロシア的な立場を取っているわけではないのである。
表向きは政権を評価するロシア国民が引き出す多額の外貨預金
首都モスクワにあるロシア中央銀行本部。
REUTERS/Shamil Zhumatov
2024年3月に次期大統領選を控えるプーチン大統領にとって、国民へのアピールは欠かせない。プーチン大統領は一貫してウクライナとの戦争の正当性を主張し、国民に理解を求めている。独立系の世論調査機関であるレバダセンターによると、そのロシアの有権者の8割以上が、プーチン大統領を評価すると回答している(図表1)。
とはいえ、国内では厭戦ムードが漂っているという報道も相次いでいる。実際に、ウクライナとの戦争は想定外に長期化しており、主だった戦果を挙げられていない。2022年9月に部分動員令を出した際は大規模な反対運動も起きている。本当にロシアの有権者の8割以上がプーチン大統領を評価しているか、定かではない。
(出所)levada center
何より、外貨預金を地場銀行(ロシア資本の銀行)の口座から引き出したままであることは、国民が本音では政権を信頼していない可能性を物語る。ロシア中銀によると、ロシアがウクライナに侵攻した2022年3月から2023年4月までの間に、ロシアの地場銀行から引き出された外貨預金の金額はおよそ3兆ルーブル(約5兆円)にも上った。
もちろん、このデータはロシア中銀が集計・推計したデータである。
ロシアのように地下経済(あるいは闇経済)が大きな国の場合、市中に出回っている外貨の量はさらに多い可能性は否定できない。あるいは、すでに何らかの形で国外に流出してしまった外貨が計上されている可能性もあることに留意したい。
それでは、引き出された外貨はどこに向かったのか。ロシア中銀によると、ロシア国民はロシアの地場銀行の口座から引き出した外貨預金の多くを手持ち(つまりタンス預金)で保有しているようだ(図表2)。この手持ち現金には、米ドルやユーロに加えて、取引に規制がないため人気が高まっている人民元も含まれていると考えられる。
さらに、ロシアに進出する外資系銀行の口座に、それこそ外貨で預金を増やしている様子がうかがい知れる。ロシア国民の多くは、外資系銀行であればいざという時に外貨預金を引き出しやすいと考えているのではないだろうか。恐らく、引き続きロシアでリテールサービスを提供しているヨーロッパ系の銀行が窓口になっているのだろう。
(出所)ロシア中銀
政権に対する「真の信頼感」を物語る外貨預金の動向
このところ、ロシアの経済指標は景気の底打ちを示すものが多い。例えば2023年1-3月期の実質GDP(改定値)は前年比1.8%減となり、マイナス幅が3四半期連続で減少した。4月の製造業生産は同7.7%増と前月(同6.1%増)に続いて前年比プラスとなった。4月の実質小売売上高も同7.4%増と13ヶ月ぶりにプラスに転じた。
6月16日、ロシアのサンクトペテルブルクで開かれたサンクトペテルブルク国際経済フォーラムで演説するプーチン大統領の様子。
Alexander Kryazhev/Host photo agency RIA Novosti via REUTERS
こうした足元の経済指標の回復もあり、プーチン大統領は冒頭で述べた「サンクトペテルブルク国際経済フォーラム」での演説で、今年のロシアの経済成長率が1.5〜2%に達する可能性があると発言した。とはいえ、そうした経済成長が実現したとしても、基本的には前年のマイナス成長の反発に過ぎず、持続性には欠けるものだ。
また、この間、ロシアの経済は需要の構成を大きく変化させている。つまり、ウクライナとの戦争を受けて刺激された軍需が拡大し、本来なら経済成長のけん引役であるはずの民需を圧迫するようになっている。外需は好調だが、それで得た所得は軍需を満たすために浪費されている。こうした経済成長の在り方は健全ではない。
プーチン大統領の主張通りロシア経済が堅調で、ロシア国民も政権を支持するなら、彼らが引き出した外貨預金を手元に置いたり、地場銀行ではなく外資系銀行口座に預けたりすることはないはずだ。農村部に多いとされるプーチン大統領の岩盤支持者層はともかく、都市部を中心に、少なくないロシア国民が政府を不安視していることは確かだろう。
一般的に、預金の動向は、人々の経済や社会に対する不安心理をよく反映するものだ。ロシアのように、国民の間で自国通貨に対する信認が弱い国の場合は、国内通貨建ての預金よりも、外貨預金の動向を観察すべきだろう。
時として外貨預金の動きは、「支持率調査以上に、国民の政権に対する信頼感を正確に反映する」ものである。
ワグネルがモスクワ進軍を試みるなど、ロシアの政情は不安定さを強めている。こうした状況を踏まえると、多くのロシア国民が、外貨預金を地場銀行からさらに引き出して、手持ち現金とするか、ないしは外資系銀行の口座に預け直す動きを強めるかもしれない。
※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です
from "安価な" - Google ニュース https://ift.tt/ZqmCNVL
via IFTTT
Bagikan Berita Ini
0 Response to "プーチン氏の圧倒的な支持率はホンモノか 外銀預金の動きが ... - Business Insider Japan"
Post a Comment