30歳を越えたあたりから中段が見えなくなった。若さに甘え、ファジーガードを練習していなかったからだ。35歳を越えると上が出なくなった。飛んだの見てから昇竜拳コマンドなんて、なんとなくやれたのに。年を経るごとにゲーミングフィジカルの衰えを痛感するが、それでも格闘ゲームが大好きだ。
その祭典たる日本最大の格闘ゲーム大会「EVO Japan 2020」が、1月24日~26日に開催された。1日目に選手参加した所感を、イベント取材とあわせて記す。参加タイトルはメイントーナメントではなく、サイドイベントの1タイトル『カオスブレイカー』大会だ。
たった1タイトルのために上京というのは狂気めいた話に思えよう。筆者もそう思うが、過去に何度かやっているので慣れている。いや、もちろん、サイドイベントに『アカツキ電光戦記 A型』や『チェンジエアブレード』、『武戯』もあったらいいのになー!という気持ちもあるが。ともかく、格闘ゲーム大会とはそれほどに価値があるのだ。
本稿は時系列順の3部構成である。大会遠征で避けて通れない0回戦。サイドイベントの様子。そしてEVO Japanに参加した感想戦だ。先に結論を明かしておくが、EVO Japanこそがeスポーツと格闘ゲーム大会の溝を埋めるイベントだと確信した。わたしたち格闘ゲーマーが守りつづけた「火」を託すに値する祭りである。
魔の0回戦
EVO Japanの大会種目は大きくふたつに分かれる。メイントーナメントとサイドイベントだ。前者は2~3日かかるが、後者は1日で決着がつき参加の敷居は低い。しかし会場にたどり着けるかどうかは話が別だ。大会遠征にまつわるトラブル、通称「0回戦」が待っている。
まずは本業の休暇を取る。格闘ゲームでたとえるなら「ガードできるかどうか」だ。古今多くの格闘ゲーマーがこれに涙した。休暇が取ない事情をガード不能連携に見立て「仕事ハメ」と呼ぶほどである。出場したいタイトルを確認してから休暇を取るのは、中段・下段を見てからガードするぐらい難しい。
次に移動手段だ。大会主催が発表する開始時間までにブースへ到着せなばならず、逆算して移動手段が確定する。これは格闘ゲームでいう移動速度や投げ間合いの管理だ。どうやって相手=会場に近づくか。時間に「甘え」は通らない。
最後に遠征予算である。これはゲージ管理そのものだ。サイドイベント発表時点で、ゲージがいくらたまっているか。移動手段によっては開催地前日入りを要し、宿泊費もかかる。予算が厳しいときは、ミスが許されない繊細なコンボを完走せねばならない。
「参加者全員が勝者」とはなぐさめの言葉ではなく、文字通り、過酷な0回戦を勝ちあがったプレイヤーへの賛辞だ。事実、筆者も0回戦敗退を喫するところであった。1月24日の新幹線を予約したつもりが、2月14日と間違えており、それが大会当日に発覚したのだ。この経験談をもって告げよう。会場入りしたすべての選手にドラマがある。
ものすごく大きなゲームセンター
EVO Japan 2020の1~2日目会場は、幕張メッセ国際展示場6ホールである。面積6750平方メートル(会場ホームページ調べ)といわれても、数字では広さをイメージしづらい。次の写真で感じ取っていただこう。
ホール入り口から会場が一望でき、参加者全員がこの絶景を目の当たりにした。率直な感想は「すごいところに来てしまった」だ。写真奥がメイントーナメントのエリアで、ホールの2/3を占める。手前側のホワイトボードあたりが、本稿で特集するサイドイベントである。レイアウトは公式サイトを参照されたし。
メイントーナメントならびにサイドイベントの2/3は、長机とパイプ椅子、液晶モニタとゲーム機をならべた構成だ。メイントーナメントはスタッフのアナウンスに従いトーナメントをすすめていく。一方、サイドイベントはプレイヤーたちが大会運営する。実況・進行・選手がブースにあつまり談話をかわしあう。どのタイトルも手慣れたもので、和気あいあいの気風を見て取れた。
気風の目視化ではサイドイベントの1/3が印象強い。VEWLIXやブラストシティといったアーケード用筐体が立ちならび、ゲームセンターの臨場感がそのままある。EVO Japanの特色は、まさにここだ。選手が筐体を囲み、立ち見で観戦する様子は、現役格闘ゲーマーならではの日常といえよう。
一言でまとめれば、ものすごく大きなゲームセンターだ。いや、各大会が同時進行しているのだから、それ以上の存在である。目を向ければ各タイトルが熱戦を繰り広げ、ギャラリーの感嘆が耳にはいる。そして現在進行形のドラマが胸を打つ。これはゲームタイトル自体のドラマもあるのだ。遠い過去を懐かしむ必要はない。格闘ゲームシーンは今が一番熱い。そう、肌で感じ取った。
大会に歴史あり
「第10回カオスブレイカー“Muscle Alliance”はじめっぞ!」
┗|┳|┛ 「「「ウオォォォ!」」」
特有の雄たけび(プレイヤーたちが格闘ゲームシーンで「蛮族」と呼ばれる由縁)ではじまった『カオスブレイカー』大会は、50人を超える参加者、3時間弱の激戦となった。独自システム「ソードインパクトリアクション」の応酬。剣と魔法がせめぎ合う果ての決着。どこをとっても名シーンだ。白熱の実況と同時にギャラリーから感嘆があがる。超技巧派プレイヤーの妙技。脳筋プレイヤーの図太い択。そして天翔る永久コンボ。参加者全員が確信したに違いない。“今回も”最高の大会だった、と。
ゲーマーに歴史あり、格闘ゲーム大会に歴史あり。参加者にプレイ歴を聞くと10年プレイヤーが実に多い(筆者もその1人だ)。これには大会の歴史がかかわっている。約10年前、関東・関西で同時期にプレイヤーの集いが生まれ、今日まで大会を通じて両地区は交流をつづけてきたのだ。関東は上記の通り第10回大会を迎え、関西では今年2月に第27回大会を予定している。
この歴史を知れば、大会遠征に手慣れているのもうなずける。EVO Japan 2020への遠征もその延長といえよう。筆者もそれなりに遠いが、さらに遠方から参加する選手もいた。大会当日に夜勤明けで新幹線に飛び乗り参加する、過酷なスケジュールの選手もいた。
他タイトルの選手も、そうした0回戦のドラマを繰り広げたはずだ。なにが格闘ゲーマーを駆り立てるのか。濃厚な対戦体験を得るため。遠征できない御当地プレイヤーと会うため。プレイヤー間のつながりは主要因であろう。ここに、もうひとつ大事な要因がある。ゲームを遊ぶために遠征するのだ。
1日目サイドイベントから2本紹介する。『堕落天使』は家庭用未移植の格闘ゲームだ。EXA基板に移植決定し再流通も近いが、「完全版」と称し新キャラクター+バランス調整を加える予定とある。つまり元バージョンで遊ぶ機会―― 現役プレイヤーが愛し、研鑽を積んだ屠龍の技(ドス竜~っ)を振るう機会は「今」しかない。
『タツノコ VS. CAPCOM』はそのケースで実例となろう。アーケードから家庭用ゲーム機への移植時に、キャラクター追加+バランス調整がはいった。タイトルこそ同じだが別のゲームなのだ。アーケード版を遊ぶ機会はプレイヤーたちが自らつくらねばならない。アーケード版は「タツカプ勢」が大会を開くからこそ、旧バージョンではなく確固たるタイトルとして存在しつづけている。
ゲーマーの中心にゲームがある。そして、ゲーマーがいるからこそゲームがある。ゲームとゲーマーの相補関係、「ゲームのためにゲームする」がサイドイベントの本質だ。その熱量はメイントーナメントにひけを取らない。選手のドラマと大会の歴史が融合した、ビデオゲーム・コミュニティの魅力がまばゆく輝いている。
スポーツ性、そして祭り性
格闘ゲーマーならば周知だが、eスポーツとして脚光をあびる前から格闘ゲームの大会はあった。プレイヤー主催の大会である。その起こりは前世紀の格闘ゲーム流行時にさかのぼる。きっかけは、対戦熱をあげる来店客へのサービスか。それとも常連客が店舗に依頼したのか。おそらく、店舗・常連客の双方で「機が熟した」のを感じ取ったに違いない。
いつまでもあると思うな親と金、ならぬゲームセンターと大会。
ゲームセンターはサービス業である。インカムが落ちたゲームは撤去され、そこでおしまいだ。そもそもゲームセンター自体が閉店する。満たされない対戦欲に導かれたプレイヤーは、ほどなくして、タイトルを主軸にコミュニティを形成していった。
そして新天地を自らの手でつくりあげる。共同出資で基板を購入し、ゲームセンターに持ち込み、曜日・月イチ限定の稼働台をつくる。無冠の帝王たちもウワサを聞きつけ足を運び、共に切磋琢磨の仲となる。誰しもが雌雄を決める日の到来を予感し、ついに「最強のプレイヤー」を決める大会が実現するのだ。プレイヤーの歴史と同時に、ゲームの歴史に新たな1ページが加わり、ゲームのためにゲームする人たちはきずなを深めていく。
この過程を経た格闘ゲーム大会は、スポーツ性とは別の要素が付与される。祭り性といってよい。そう「村の祭り」だと考えればわかりやすい。たとえ遠く離れていても、大会の日には村の氏子として神輿を担ぐのだ。遠く離れていても―― ゲーマーは人だ。ピーターパンではない。10年もたてば学生は社会人となり、職も変わる。結婚すればゲームに割く時間も減る。プロゲーマーやゲームライター、ゲームクリエイターになるかもしれない。それでも、コミュニティにルーツをおくゲーマーは大会に集うのだ。こうして格闘ゲームは心のともしびとなり、プレイヤーは大会に参加することで「火」を、格闘ゲームそのものを守っている。
スポーツビジネス、スポーツエンターテインメントといった、eスポーツの物差しでは測れない格闘ゲーム大会の醍醐味だ。EVO Japanのサイドイベントはその未来像を実現した。自主開催で大会の歴史を尊重しつつ、多数合同開催という機会で村の交流をうながしている。『カオスブレイカー』大会でも、他タイトルのプレイヤーが幾人か参戦した。サイドイベント『ウルトラファイトだ!キャン太2』クリエイターが参戦する、うれしいサプライズもあった。
しかし、プラス面と同時に新たな問題を生む。クローズドな村社会の気風が表に出る機会を得てしまうのだ。残念だが、2日目サイドイベントの1タイトルでコミュニティのトラブルがあり、イベントに水を差してしまった。どの格闘ゲーム大会も当件を反面教師とし、次の機会までに「対策」をすすめられたし。それだけでなく、参加者が桁違いに多いメイントーナメントもトラブルがある。進行・アナウンスは事前連絡ない棄権者で予定が狂う。ボランティア貸出機の管理もある。これらを未然とするには? EVO Japan運営に任せるだけでなく、参加者側も、格闘ゲームでいう「立ち回り」を考えよう。キャラ対・人対で研究熱心な格闘ゲーマーなのだから、きっと諸問題を乗り越えるだろう。曰く「キャラ差は覆らないが、ヤリコミは裏切らない」。
最後に問題提議したが、EVO Japan 2020参加の所感は「格闘ゲーマーでよかった」という気持ちが大きく上回った。自宅でライブ配信も魅力的だが、それ以上にサイドイベントの参加は刺激的だ。なにしろ『カオスブレイカー』世界最強プレイヤーを決める大会なのだ。楽しくないワケがない。読者諸君も、次のEVO Japanでサイドイベントに目当てのタイトルがあるなら、是非参加を検討されたし。
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January 27, 2020 at 07:00AM
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