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その記事の内容、本当? 実態不明のニュースサイト「ピンク ... - 東京新聞

 米国で地方紙の衰退によって生まれた報道の空白地帯に、地元密着の報道機関を装ったニュースサイトが増えている。一般記事に混じってうそや党派色の強い記事などが紛れ込むため、化学処理した安価な加工肉「ピンクスライム」を混ぜたひき肉に例えて「ピンクスライム・ジャーナリズム」と呼ばれる。今後は人工知能(AI)を活用したピンクスライムが増える可能性も指摘されている。(ワシントン・吉田通夫)

◆「粗悪品を本物の地域報道のように見せかけ」

 「中西部イリノイ州シカゴに住んでいたが、南部テキサス州ヒューストンなど見たこともない街の議会の記事などを現場に行かずに書いた」。ジャーナリストのライアン・ジックグラフ氏(46)が、ピンクスライム・ジャーナリズムの内情を打ち明ける。後にピンクスライムで有名になる実業家ブライアン・ティンポーネ氏の会社で、2012年まで1年半にわたってライター兼編集者として働いた。

 当時は自社のネット掲載だけでなく、外部の一般紙に売る記事も作成していた。直接会ったことのない上司から送られてきた動画で仕事を指示された。30個ほどの偽名も作成。編集者として、フィリピン人を中心とする海外からも送られてくる1日数百本の「記事」にあてがった。記事は、ほかの報道機関の記事や発表文の切り貼りがほとんど。報酬は1本数セント(数円)と安価のためライターは大量に書かねばならず、誤りも多かった。

インターネットを介して取材に答えるライアン・ジックグラフ氏

インターネットを介して取材に答えるライアン・ジックグラフ氏

 小学生のころから地方紙の報道に親しんできたジックグラフ氏は「劣化した粗悪品を本物の地域報道のように見せかけている」と罪悪感を感じたという。12年にラジオで告発し、退職した。ピンクスライム・ジャーナリズムという言葉を世に広めた。「当時、『ピンクスライム』を無表示で混ぜたひき肉の問題が報じられていた。同じ構図だった」

◆地方紙が廃刊した「ニュース砂漠」に侵食

 一般紙は同社の記事を掲載しないようになり、ティンポーネ氏は表舞台から姿を消した—。かに見えたが、実際には主戦場をネットに移し、本社所在地不明のメトリック・メディア社を設立してニュースサイトを急増させていた。米コロンビア大学の調査では、19年に450だったピンクスライムサイトは20年に1200に。メトリック社は現在1300サイトを運営していると公表している。

 テキサス州に絞ったサイトだけでも約50にのぼり、「ヒル郡クロニクル」など地域の伝統的な新聞のような名前を冠する。米紙ワシントン・ポストによると、05年以降で廃刊になった地方紙は2000超。生じた「ニュース砂漠」に、ピンクスライムが侵食する構図だ。閲覧者数など同社の実態は不明。

「ウエーブ・ファンクション」というサイトに掲載された記事。AIで生成されたとみられ、G7財務相らが新型コロナウイルス対策のため財政支援で一致したという虚偽の内容。見出しと画像は記事と一致していない

「ウエーブ・ファンクション」というサイトに掲載された記事。AIで生成されたとみられ、G7財務相らが新型コロナウイルス対策のため財政支援で一致したという虚偽の内容。見出しと画像は記事と一致していない

 党派色も強まった。コロンビア大学の調査によるとメトリック社には保守系団体が資金を提供しており、保守的な政治家や団体に有利な記事が一般記事に紛れ込んでいる。

 グループの「ウエストクック・ニュース」は昨年、地域の高校が有色人種に有利になるよう成績を操作するという趣旨の記事を掲載。当局は否定したが、保守派は記事を広め、積極的な差別是正措置「アファーマティブアクション」への批判に利用した例がある。

 ジックグラフ氏が告発した当時は「ピンクスライム1.0」の最初期と位置付けられ、現在は「ピンクスライム2.0」と呼ばれる。

◆AIで「もっともらしいうそ」を拡大か

 そして今後は、人工知能(AI)を活用した「ピンクスライム3.0」の拡大が予想されている。

 報道機関の信頼や透明性を評価するプロジェクト「ニュースガード」によると、既存報道からほぼAIだけで記事を生成しているサイトは世界に数百ある。研究者が「ハルシネーション(幻覚)」と呼ぶAI特有の「もっともらしいうそ」が入り交じる。

 中国で3月に登録されたという英語サイト「ウエーブ・ファンクション」は4月に、先進7カ国(G7)の財務相らが、新型コロナウイルスによる世界的な打撃に対処するため財政支援などで合意したとの虚偽記事を載せた。4月に共同声明が打ち出したのは米国発の金融危機への対応やウクライナ支援などだった。見出しはちぐはぐだが、記事の内容自体はすぐにはうそと見破りにくい。

 こうしたサイトの現段階の狙いは主に広告収入とみられ、中にはSNS(交流サイト)で多くのフォロワーを獲得したサイトもあるという。米ノースイースタン大学のダン・ケネディ教授(メディア論)は自身のサイトで「悪賢いタイプの新しいピンクスライムが近づいてくることは確かだ」と指摘した。

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