欧州自動車工業会(ACEA)は9月6日、欧州自動車部門の雇用主団体および労働組合を含む7つの団体とともに、欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長に宛てた共同書簡を発表した(プレスリリース)。書簡において、同委員長の任期が残り1年となる中、自動車部門のデジタル化およびグリーン化推進への取り組みを再表明した上で、競争力強化への支援、雇用維持に迅速に取り組むことを要請した。最優先課題として、(1)確固たる産業政策の策定、(2)欧州のゼロエミッション市場とバッテリー・バリューチェーンの拡大、(3)持続的かつ一貫性のある規制環境の形成、(4)スキルアジェンダ(注)と公正な移行枠組みへの支援強化、(5)経済的かつ持続可能なモビリティの普及に向けた各種インセンティブの実施、(6)グローバル市場での公正な競争環境の担保の6つを挙げた。
ACEAが書簡を出した背景にはまず、国内の電気自動車(EV)生産支援を強化してきた中国や、インフレ削減法(IRA)で民間投資が活発化している米国への危機感がある。欧州委は2月、IRAへの対抗策としてグリーン・ディール産業計画を発表したが(2023年2月3日記事参照)、ACEAは同部門への投資を呼び込み、競争力を維持するため、EU域内・域外での公正な市場競争の確保と企業競争力を損なわない規制枠組み、必要な財政支援の実施のほか、安価なエネルギーの安定供給などから成る産業政策の策定を提言した。特にIRAについて、バッテリー・バリューチェーンや自動車の環境性能の向上に必要な部品開発に対する投資喚起に向け、より強力な対抗策を求めた。域外国・地域への原材料などの供給依存の低減や、供給元の多様化の必要性も指摘した。
次に、EUは国際的にも自動車分野で厳しい規制を実施する地域の1つで、近年も新たな規制の施行や提案が続いている。ACEAは、関連規制の細分化によって、投資や市場の需要の減退につながる不安感が生み出されていると指摘。欧州委に対して、単一市場の深化や貿易障壁の撤廃に加え、技術的中立性の重要性を再確認し、さまざまな規制を合理化・明瞭化すべきだとした。また、新たな規制の提案にあたっては、広範囲にわたる影響を評価し、競争力をチェックするよう求めた。
また、デジタル化とグリーン化に伴い、労働者に求められるスキルも変化し始めているため、「公正な移行」に向け、特に自動車産業に依存する地域で、デジタルスキルなどの習得への支援強化を求めた。
(注)労働者と企業を対象とする、技能の向上と活用に向けたEUのイニシアチブ。
(滝澤祥子)
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