ウクライナとロシアの紛争において、両軍はさまざまな用途でドローンを運用しています。アメリカはウクライナ支援のためにハイスペックなアメリカ製ドローンを提供していたのですが、不具合が多くあまりに高価過ぎるということで、ウクライナ軍はより安価な中国製ドローンに目を向けつつあるとウォール・ストリート・ジャーナルが報じました。
Ukraine War: How American Drones Failed to Turn the Tide - WSJ
https://www.wsj.com/world/how-american-drones-failed-to-turn-the-tide-in-ukraine-b0ebbac3
How American drones failed to turn the tide in Ukraine | Mint
https://www.livemint.com/technology/how-american-drones-failed-to-turn-the-tide-in-ukraine-11712726647939.html
ウクライナは2022年4月に中国のドローンメーカーであるDJIのドローンは技術的不具合が多いとして、DJI製ドローンの使用中止を勧告。DJIに代わり、アメリカのドローンスタートアップであるSkydioは、ウクライナにハイスペックドローンを提供しました。
ウクライナ政府が中国・DJI製ドローンの使用中止を勧告、空いた席をアメリカのメーカーが狙う - GIGAZINE
しかし、Skydioのドローンは指定のコースを外れて飛行したり、ロシアによる電子妨害の犠牲になったりと、ほとんど実戦では役立たないことが明らかになっています。Skydioのアダム・ブライCEOは「ウクライナではアメリカのどのドローンも他システムほどうまく機能していないというのが一般的な評価です。ウクライナ紛争の前線では当社のドローンはあまり成功したプラットフォームとは言えません」と述べ、自社製ドローンがウクライナ紛争においてあまり活躍していないことを認めています。
ウクライナ紛争において失敗との評価に甘んじているのはSkydioのドローンだけではありません。アメリカ企業のドローンは全体的に有意義な存在感を示すことができておらず、ドローン企業の幹部、紛争の最前線で戦うウクライナ人、ウクライナ政府の関係者、アメリカの国防総省の関係者らは口をそろえて「アメリカ製ドローンは高価で不具合が多く、修理が難しい傾向にある」と評している模様。
ウクライナ当局の関係者によると、アメリカ製ドローンは「壊れやすく」「ロシアの妨害電波やGPS妨害技術を克服できていない」だけでなく、時には離陸しなかったり、離陸したもののそのまま帰ってこなかったりするケースもあるそうです。他にも、スペックに記されている航続距離を飛行できないケースや、耐荷重がスペックを下回るケースも多いとのこと。
ウクライナ軍に3万機以上のドローンを供給してきた慈善団体・Come Back Aliveの上級アナリストであるミコラ・ビエリエスコフ氏は、アメリカ製ドローンを「開発が遅れている」と評しています。
Skydioのドローンはアメリカ軍が定めた通信規格に準拠するよう設計されています。これは他のアメリカ製ドローンも同様です。しかし、その影響で製造できるドローンの品質や製造速度が制限されてしまっていることが指摘されています。また、アメリカのドローンメーカーはウクライナ紛争において電子戦が繰り広げられことを「想定していなかった」と証言しています。
一方で、同じくウクライナにドローンを供給しているアメリカのドローンメーカー・AeroVironmentは、「ロシアの電波妨害はすべてのドローンに影響を与えていますが、弊社のドローンはそれに対処するためにアップデートされています」と述べ、ロシア側の電波妨害には対処済みであることを強調しています。
アメリカとギリシャのスタートアップであるVelos Rotorsは、2023年12月に「Velos V3」をウクライナのキーウ郊外で試験飛行させていますが、この試みは失敗したと発表しています。ただし、Velos Rotorsの広報担当者はウクライナ軍がVelos V3を運用しており、アメリカ政府からの受注があればすぐにでも出荷する用意があるとも言及しました。
ウクライナ軍のドローンプログラムを管轄しているデジタル変革副大臣のゲオルギイ・ドゥビンスキー氏は、アメリカ製ドローンに存在する制限について「日々のアップデートが必要とされるドローン戦において大きな問題となっています」「我々は新たなテクノロジーに迅速に適応する必要があります。この戦争におけるイノベーションのサイクルは非常に短いです」と語りました。
ウクライナは一度、中国のドローンメーカーであるDJI製ドローンの利用から撤退していたものの、再びDJI製ドローンの運用に戻ることを計画しているようです。ウクライナは中国製部品に依存した国内ドローン産業を発展させており、爆発物を運搬するための小型で安価なドローンや、ロシア領土の奥深くまで飛行してロシア艦隊を攻撃するための大型ドローンも製造しています。こういった背景も中国製ドローンの運用を後押しする要素となる可能性があります。
2024年2月、アメリカとイギリスはウクライナに数千機のドローンを供給することを発表しました。そのため、「ウクライナ軍が中国製ドローンに注目している」という今回の報道は、アメリカ国防総省にとって悪い知らせであるとウォール・ストリート・ジャーナルは指摘しています。
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ドゥビンスキー副大臣はアメリカ製ドローンの運用を完全に中止するわけではなく、今後も試験的に運用を続けると説明しています。それでも「我々は費用対効果の高いソリューションを探しています」とも述べており、高価で不具合の多いアメリカ製ドローンの運用を減らすことを暗に示唆しました。
ただし、ウクライナ検事総長室はSkydio製ドローンの撮影した映像について、「民間人や核施設への攻撃を含むロシアの戦争犯罪容疑を調査するのに役立っている」と称賛しており、アメリカ製ドローンが全く活躍していないというわけではありません。
なお、アメリカはDJIを中国の軍事企業であると認定しており、同社製ドローンが中国政府の監視ツールとして機能していると主張しています。そのため、アメリカ国防総省はアメリカ軍でのDJI製ドローンの使用を禁止しており、FBIは中国製ドローンを使用する民間企業に対して警鐘を鳴らしました。これに対して、DJIはアメリカ政府によるDJI製品禁止案は「政治的動機に基づくものである」と主張しています。
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