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キーボードが改善された「MacBook Pro 13インチ」の進化具合を分解しつつじっくり堪能する - PC Watch

Ice Lake世代の第10世代Coreを搭載し、キーボードをMagic Keyboardに改めたMacBook Pro 13インチモデル。今回レビューするのはApple Storeで選択できる税別188,800円で販売されている構成のものだ

 Apple5月、「MacBook Pro」の打鍵感を改善したMagic Keyboardを搭載する新しい13インチモデルを発売した(以降、MacBook Pro 13インチモデルと呼ぶ)。

 2019年のMacBook Pro 16インチモデルから搭載がはじまったMagic Keyboardは、先にMacBook Airに搭載されたが、これでMacBook Proの主力である13インチモデルも同じキーボードを搭載し、ノート型Macの外的な設計変更は一段落した格好になる。

 今回のMacBook Pro 13インチモデルはハード設計の違う上位/下位モデルが用意され、それぞれに標準構成の異なる2バリエーションが存在する。上位と下位はUSB Type-C(Thunderbolt 3)のポート数で見分けることができ、USB Type-Cが2基の下位モデルはCPUがベース1.4GHz動作の第8世代Core i5、4基の上位モデルはベース2GHz動作の第10世代Core i5を搭載している。一見するとUSBポートとの差だけに見えるが、中身は別物なのだ。

 今回はこの第10世代Core i5を搭載した上位モデルのうち、税別188,000円で販売されている製品をテストするチャンスに恵まれた。8年落ちの旧モデルやシリーズ最上位のMacBook Pro 16インチモデルと比較しつつレビューしてみたい。

【表1】MacBook Pro 13インチモデルの上位モデル ※CPUの型番はツール実測によるもの
MacBook Pro(13インチ、2020、Thunderbolt 3ポート x4)
型番 MWP42J/A(スペースグレイ、検証機)
MWP72J/A(シルバー)
MWP52J/A(スペースグレイ)
MWP82J/A(シルバー)
ディスプレイ 13.3インチ 2,560×1,600ドット(227ppi)、True Toneテクノロジー
CPU Core i5-1038NG7(4コア8スレッド、2〜3.8GHz)
メモリ LPDDR4X-3733 16GB
グラフィック Iris Plus Graphics 655(CPUに内蔵)
ストレージ 512GB(NVMe SSD) 1TB(NVMe SSD)
インターフェイス Thunderbolt 3×4(Displayport/USB 3.1)
ネットワーク Wi-Fi 5(IEEE 802.11ac)、Bluetooth 5.0
バッテリ容量 58Wh
バッテリ動作時間 最大10時間
サイズ 304.1×212.4×14.9mm(幅×奥行き×高さ)
重量 1.4kg
OS macOS Catalina
税別価格 188,800円 208,800円
【表2】MacBook Pro 13インチモデルの下位モデル ※CPUの型番はツール実測によるもの
MacBook Pro(13インチ、2020、Thunderbolt 3ポート x2)
型番 MXK32J/A(スペースグレイ)
MXK62J/A(シルバー)
MXK52J/A(スペースグレイ)
MXK72J/A(シルバー)
ディスプレイ 13.3インチ 2,560×1,600ドット(227ppi)、True Toneテクノロジー
CPU Core i5-8257U(4コア8スレッド、1.4〜3.9GHz)
メモリ LPDDR3-2133 8GB
グラフィック Iris Plus Graphics 645(CPUに内蔵)
ストレージ 256GB(NVMe SSD) 512GB(NVMe SSD)
インターフェイス Thunderbolt 3×2(Displayport/USB 3.1)
ネットワーク Wi-Fi 5(IEEE 802.11ac)、Bluetooth 5.0
バッテリ容量 58.2Wh
バッテリ動作時間 最大10時間
サイズ 304.1×212.4×14.9mm(幅×奥行き×高さ)
重量 1.4kg
OS macOS Catalina
税別価格 134,800円 154,800円

キーボードがシザーズ式になり打鍵感向上

 今回もデザイン面で語るべき部分はそう多くない。アルミ削り出しによる一体成形筐体はまさに“おなじみだ”と言うほかはない。

 だがキーボードが「Magic Keyboard」と、Escキーが物理的に独立したTouch Barに変更されたことで、使い勝手は大きく変わった。前モデルまで採用されていたバタフライ式の機構を持ったキーボードは薄く設計できる反面、トラベルディスタンス(いわゆる“ストローク”)が短くて違和感を覚える声が多く、さらに構造的に異物混入に弱い、入力の誤検知などの問題を抱えていた。

 本機に搭載されているMagic Keyboardはハサミ(シザーズ)のような機構に戻すことで、これまでのキーボードに対する不満を解消したものだ。打鍵感はバタフライよりソフトに、かつしっかりと“押した”感も味わえる。

 昨年(2019年)登場したMacBook Pro 16インチモデルで初採用されたキーボードだが、このMacBook Pro 13インチモデルに採用されたことで全MacBookファミリーのキーボードが統一されたことになる。

 ただキーボードの機構を変更したことで、本体の厚みは前モデルよりも0.7mm(14.9mm→15.6mm)増加した。ハードシェルケースを使っている場合は買い換えになる点だけは注意しておこう。

AppleのJIS配列だとAの隣にCtrlキーが標準なのは評価すべきところだ(OSの設定で修飾キーは配置を入れ替えられる)。BackSpaceが隣のキーと合体しているようなやりくり感がないのも良い

 個人的にはMacBookファミリーのトラックパッドの優秀さを改めて主張したい。機構的には物理ボタンを排除した感圧式パッドだが、内蔵アクチュエータ(Taptic Engine)で擬似的なクリック感を得られる。トラックパッドのどこを押してもクリック感が得られるし、「Premiere Pro」だとタイムラインでクリップを移動させたとき、別のクリップに頭が合うと振動で教えてくれる。

 「Lightroom Classic」でも指のスワイプで写真を送ることができるが、このときのフィーリングが最高に心地よい。もちろんこれは筆者が慣れているからこその感想だが、MacBookファミリーのトラックパッドはmacOS環境で一度使い込むことをおすすめしたい。もうマウス操作には戻れなくなるだろう。

 キーボード上部のTouch Barもパッド同様にすばらしい……と言いたいところだが、ここは賛否の分かれるところだ。音量やディスプレイ輝度の調節、Siriの起動等のほかに、操作のコンテクストに応じてさまざまなボタンを動的に配置できるのが売りだが、目線をディスプレイから外し、指をTouch Barに動かす必要があるため、使い勝手が良くない、という人は相当数いるだろう。ただEscキーが物理キーになった点は、Escを多用するアプリ(とくにVim)を使う人にとっては朗報と言える。

キーの機構が変更されたことで、キートップの飛び出しが若干増え、結果としてしっかりとした打鍵感を得られるようになった。EscキーもTouch Barから独立した
Escキーの反対側には、これまたTouch Barから独立したTouch ID(指紋認証)兼パワーボタンがある。Touch IDはログインのほか、環境設定変更時やApple Pay利用時の認証を高速化するのにも使える

 搭載インターフェイスはUSB Type-C(Thunderbolt 3)が両サイドに2基ずつと、オーディオ入出力用のミニジャックが1基とシンプルだ。USB Type-Cで充電やUSBやThunderbolt 3デバイスとの接続をすべてカバーする。

 一般的なUSBデバイスとの接続を想定するならUSB Type-C Hubを1台買わないといけない反面、充電に4基あるType-Cポートのどれを使ってもよいというのは非常に合理的だ。USB Type-C Hubを買うならUSB PD(Power Delivery)対応にしておけば、さらに配線はスッキリする。

 インターフェイス構成に目新しさは皆無だが、USB Type-C経由の外部ディスプレイ出力は少々強化された。前モデルは4K(4,096×2,304ドット)@60Hzのディスプレイなら2基まで、5K(5,120×2,880ドット)なら1基のみ接続することができたが、今回のMacBook Pro 13インチモデルではさらに1基までなら6K(6,016×3,384ドット)@60Hz接続も可能になった。同社の6Kディスプレイ「Pro Display XDR」を受けての対応だが、同じMacBook Pro 13インチモデルでもUSB Type-Cが2ポートの下位モデルは5K出力までの対応となる。

左側面。Thunderbolt 3対応のUSB Type-Cが2基あるのみ
液晶を閉じた状態。前モデルより厚くなったため、旧モデル用のハードシェルケースは使い回せないのが残念
右側面はUSB Type-Cのほかにオーディオ入出力3.5mmジャックを配置。CTIA仕様の4極プラグ対応なので、スマートフォンやゲーム機用のヘッドセットをマイク-ヘッドフォン分岐ケーブルなしで利用できる
本体正面には何もインターフェイス類は配置されていない

MacBook Airよりも色域の広いMacBook Pro

 MacBook Pro 13インチモデルの搭載液晶は物理解像度2,560×1,600ドット、IPSパネルを使用したRetinaディスプレイが採用されている。

 下位のMacBook AirもRetinaディスプレイ化したため、MacBook Proのアドバンテージが薄れてきてはいるが、MacBook Airの液晶の色域はsRGBなのに対し、MacBook Proはより色域の広いP3(Display P3)対応であるため、写真編集や動画編集により適した設計になっている。

 液晶表面がガラスで覆われているため映り込みに気をつける必要があるものの、環境光に合わせてホワイトバランスを変える機能(True Toneテクノロジ)もあって見やすさは良好だ。

 ただデスクトップの広さはデフォルトで1,440×900ドット相当、最大でも1,650×1,050ドット相当であるため、動画編集で長いタイムラインを追いかけるような使い方だと窮屈さは否定できない。

 この辺は外部ディスプレイの追加で凌ごう。また、MacBook Pro 16インチモデルの強みであった29.97や59.95Hzといった動画編集向けのリフレッシュレートも選択できない点に注意したい。

基本性能を計測する

 それでは気になる性能をチェックしよう。今回はMacBook Pro 13インチモデルのほかに、昨年レビューしたCore i9-9980HKを搭載のMacBook Pro 16インチモデル(物理Escキー復活などCPU以外ほぼ全取っ替えになった「MacBook Pro 16インチ」は“買い”である参照)、そして旧モデルとしてCore i5-3210M搭載のMacBook Pro 13インチモデル(2012年発売)の3モデルを準備した。

 旧MacBook Pro 13インチモデルのCPUはIvy Bridge世代、メモリは8GB、SSDもSATA……と、かなりの格落ち感があるが、現行Macと同じmacOS Catalinaを導入できる一番古いモデルでもある。

 8年前のモデルと比べれば速いのは当然だし、昨年登場とは言えCPUもGPUも格上の16インチモデルより遅いのは当然ではあるが、最新の13インチMacBook Proの立ち位置を掴んでいただければ幸いだ。

 これ以降、単にMacBook Pro 13インチモデルと書いた場合はレビュー対象の新MacBook Pro 13インチモデルのことを指し、比較用に準備した旧世代モデルは旧MacBook Pro 13インチモデルと表記することとする。

 まずはCPUの性能を「CINEBENCH R20」で比較してみよう。

CINEBENCH R20のスコア

 旧MacBook Pro 13インチモデルのCPUは2コア4スレッド、今回のMacBook Pro 13インチモデルは4コア8スレッドなので論理コア数は2倍だが、コア自体の処理性能も少しずつ上げているため、マルチスレッドのスコアは2倍どころか約3倍に増加した。シングルスレッド性能は1.8倍にとどまったが、8年前のMacBook Pro 13インチモデルに比べると圧倒的な性能差が体感できるだろう。さすがにCore i9-9980HKのパワーには圧倒されるが、マルチスレッド性能ではコア数通りのスコアになっている点に注目したい。

 続いてグラフィックの描画性能を「Unigine Valley」で計測してみた。画質はプリセットの「Standard」とし、ベンチマーク終了後に表示されるフレームレートで比較する。

「Unigine Valley」のフレームレート

 Radeon Pro 5500Mで描画するMacBook Pro 16インチモデルが圧倒的なのは当然だが、MacBook Pro 13インチモデルもIntel製内蔵GPUを使っているわりにはかなり健闘していると言える。旧MacBook Pro 13インチモデルの遅さを考えると、最新のIris Pro GraphicsとLPDDR4X-3733の組み合わせはかなり強力であると言えるだろう。

 ただしValleyのStandard設定で平均40fpsがやっとというレベルなので、MacBook Pro 13インチモデルのゲーム用途には向かないと断言できる。動画や写真編集でGPUの支援を受けるためのもの割り切ったほうが良さそうだ。

 ストレージの読み書き性能も「AmorphousDiskMark」で計測してみた。テスト条件はデフォルト設定(512MiB×5)を使用している。

「AmorphousDiskMark」によるMacBook Pro 13インチモデルの内蔵SSD性能
「AmorphousDiskMark」によるMacBook Pro 16インチモデルの内蔵SSD性能
「AmorphousDiskMark」による旧MacBook Pro 13インチモデルの内蔵SSD性能

 MacBook Pro 13インチモデルのストレージのリード/ライト性能はMacBook Pro 16インチモデルに比べてやや下回った。PCI Express 3.0 x4接続にしてはやや遅い印象だが、この程度あれば大きなファイルの読み書きであまり困る事はないだろう。旧MacBook Pro 13インチモデルのSSDはSATA接続なうえ、CPUも今となっては非力なのでFinderにおけるコピー操作も重く感じる。作業効率をもっとキビキビさせたいなら、MacBook Pro 13インチモデルへの乗り換えがおすすめだ。

実アプリでの性能は?

 次はクリエイティブ系アプリを中心にしたベンチマークで比較してみる。まずは「blender」最新版で1フレームのレンダリング時間を比較してみた。使用したシーンはblenderの公式から落とせる「The Junk Shop」を利用した。

「blender」のレンダリング時間

 CINEBENCH R20と違い処理時間で比較するのでバーが短いほうがより速いという意味になる。このテストでもMacBook Pro 16インチモデルの強さが圧倒的だが、MacBook Pro 13インチモデルとMacBook Pro 16インチモデルはCINEBENCH R20よりも若干縮まっている(約1.9倍→約1.6倍)。

 続いて「Premiere Pro」を利用して動画の手ぶれ補正処理時間を見てみよう。タイムラインに再生時間1分の4K H.264動画を貼り、エフェクトの「ワープスタビライザー」を追加してから補正が終わるまでの時間を計測した。

「Premiere Pro」における手ぶれ補正処理の時間

 ここでもMacBook Pro 16インチモデルが圧勝と思われたが、実際はMacBook Pro 13インチモデルが僅差でトップに立つという予想外の結果となった。ワープスタビライザーはマルチスレッド化されているが実のところ4コア程度しか使わないため、MacBook Pro 16インチモデルのCore i9-9980HKの力が発揮できないためと思われる。

 続いてはPremiere Pro 2020で編集した再生時間約3分半の4K動画を、「Media Encoder」を利用してH.264もしくはH.265でMP4動画にエンコードする時間を計測する。ビットレートなどの設定はH.264が1パスVBRで平均80Mbps、H.265が1パスVBRで平均50Mbpsとなる。

「Media Encoder」を利用したエンコード時間の比較

 H.264に関してはblenderよりもさらにMacBook Pro 16インチモデル寄りの結果が出ている。MacBook Pro 16インチモデルの6〜7割程度の性能といったところだ。計算量の多いH.265だと差が開くが、とくに旧MacBook Pro 13インチモデルはCPUの世代が古いことも手伝って、処理時間が大きく開いている点に注目したい。最高の動画編集環境を作りたいならMacBook Pro 16インチモデルが良いのは事実だが、第10世代Coreを搭載したMacBook Pro 13インチモデルの実力もそう悪くない。

 続いてはRAW現像における性能を見るために「Lightroom Classic」で試してみたい。DNG形式のRAW画像(24メガピクセル、補正つき)を準備し、最高画質のJPEG画像に書き出す時間を計測した。書き出しダイアログ上で「シャープネス処理(スクリーン用、標準)」を追加しているため、CPU負荷はかなり高い。

「Lightroom Classic」によるDNG→JPEG書き出し時間

 MacBook Pro 13インチモデルはLightroom Classicの性能においてもMacBook Pro 16インチモデルにかなり近い結果を出せている。RAW画像から100枚一気に書き出すシチュエーションはやや現実的ではないが、4コア8スレッドのCore i5-1038NG7の性能はかなり良好と言えるだろう。

Windowsマシンとしての性能はいかに?

 次にMacBook Pro 13インチモデルをWindowsノートとして運用したとするなら、どの程度の性能が出るのだろうか? BootCampを利用してWindows 10 Pro(May 2020 Update)を導入し、Windowsのベンチマークをいくつか動かしてみた。

 まずは総合ベンチマーク「PCMark10」から“Standard”テストを実行する。各テストグループ別のスコアも比較し、どの処理に強い/弱いかも見てみよう。

「PCMark10」Standardテストのスコア

 Standardテストの総合スコア(Overall)の順位はMacBook Pro 16インチモデル>MacBook Pro 13インチモデル>旧MacBook Pro 13インチモデルとなったのは、これまでのベンチ結果から容易に想定できる結果と言える。

 MacBook Pro 13インチモデルはEssentialsテストグループでMacBook Pro 16インチモデルに肉薄するスコアを上げているが、これはIris Plus Graphics 655のOpenCL性能が秀逸であるためだ(具体的にはVideo Conferencingテストで高スコアを上げている)。アプリの起動時間やFireFoxによるブラウジング性能に関しては、MacBook Pro 16インチモデルと旧MacBook Pro 13インチモデルの中間程度の性能にとどまっている。

 1つおもしろいのはProductivityテストグループのみ、旧MacBook Pro 13インチモデルがMacBook Pro 13インチモデルをわずかに上回っている点だ。このテストはLibreOfficeのスプレッドシートとワープロを利用した処理性能を計測するものだが、何回試しても旧MacBook Pro 13インチモデルのではワープロの処理でMacBook Pro 13インチモデルを上回っていた。スプレッドシートのスコアはMacBook Pro 13インチモデル>旧MacBook Pro 13インチモデルなのに、ワープロだけ逆転している。理由についてはさらなる精査が必要だろう。

 続いてはグラフィック描画性能を「3DMark」でテストした。MacBook Pro 13インチモデルはIntel製内蔵GPUを使っているため、軽めの「Sky Diver」、「Night Raid」、「Fire Strike」の3本を使用した。

「3DMark」のスコア

 macOS上で実行したValleyと同傾向だが、軽めのSky DiverやNight Raidならそこそこ高いスコアが出せている。旧MacBook Pro 13インチモデルではコマ落ちの激しい描画しかできない状態に比べると、MacBook Pro 13インチモデルの内蔵グラフィックは劇的に進化していると言える。

 では「ファイナルファンタジーXIV:漆黒のヴィランズ」の公式ベンチを使い、軽めのゲームを回してみたという想定でグラフィックの描画性能を比較してみよう。画質は一番下の“標準品質(ノートPC用)”とし、解像度は1,920×1,080ドットおよび1,280×720ドットとした。

「ファイナルファンタジーXIV:漆黒のヴィランズ」ベンチマークのスコア
「ファイナルファンタジーXIV:漆黒のヴィランズ」ベンチマーク実施時のフレームレート

 スコアから導き出される評価は、画質を最低まで落として解像度も下げれば“非常に快適”判定、フルHDならば“快適”となる。ただ解像度を下げてもベンチマークなかのフレームレートは60fpsを割り込むため、アクション性の高いゲームには不向きであることがわかる。ゲームも楽しみたいなら、素直にRadeonの載っている16インチモデルを選んだほうがよいだろう。

発熱やバッテリのスタミナは?

 性能比較はここら辺にして、次はハイパワーノートPCの泣き所である発熱について検証してみよう。MacBook Pro 13インチモデルインチにかぎらず、薄型筐体でコア数の多いCPUを搭載したノートは、エンコード処理などでCPUに強い負荷をかけるとあっと言う間にCPU温度が高温になる。今回のMacBook Pro 13インチモデルもCore i5-1038NG7をどこまで冷やせるのか知りたいところだ。

 そこで今回は前述のMedia Encoder 2020によるH.264動画のエンコードの裏で「Intel Power Gadget」を利用してCPUのクロックやパッケージ温度などを追跡した。室温は約27℃の環境でテストしている。

CPUのクロックとパッケージ温度の推移
CPUのクロックとProcesor Powerの推移

 まずCPUパッケージ温度はエンコード開始から30秒弱でTjmax付近、つまり98℃〜100℃に到達。ただこの値を上限値として、下限は80℃近辺まで上がったり下がったりするので、つねにTjmax張りつきというわけではない。

 CPUのクロックは処理開始から3分過ぎまでは3.2GHzあたりを上限として変動するが、4分あたりから変動の中心が3GHzあたりに移る。薄型筐体を使っているがゆえの挙動なのは明らかだ。

 CPUのクロックとCPUのProcessor Powerの推移をつき合わせてみると、前半3分までクロックが高いときと、4分以降のクロックが低くなったときではProcessor Powerの振れ幅に違いが出ている。

 値を追跡した約15分間におけるProcessor Powerの平均は30Wであるため、TDPギリギリまでパワーを出すようにチューニングしてあると推測できる。CPUの温度を低く抑えて運用したい人向けというよりも、パワーをかけて短時間で処理を終わらせたい人に合わせた味付けと言えるだろう。

エンコード中のCPUの様子。処理中盤なのでクロックは3GHz近辺まで落ち込み、CPうパッケージ温度は100℃近くで安定している。上のグラフで示したProcesor Powerは30Wをやや超えるが、コアだけの消費電力は28W(=TDP)ラインを上回っていない点に注目

 最後にMacBook Pro 13インチモデルのバッテリの持続時間を見てみよう。Wi-Fi(IEEE 802.11ac)を利用してYouTubeの4K動画を延々と視聴し、そのときのバッテリ残量を“ioreg -n AppleSmartBattery”で拾っていった。バッテリ駆動時の画面輝度は一番上から4目盛り下に設定している。

MacBook Pro 13インチモデルのバッテリは完全充電時は5235mAh。今回のバッテリテストでは5230mAhを100%として計測を開始した
YouTubeの連続再生時におけるMacBook Pro 13インチモデルのバッテリ残量をプロットしたもの

 公式スペックではApple TVアプリの動画再生時間は最大10時間とあるが、このテストでは6時間5分程度でバッテリ残量はほぼゼロとなった。今回のテスト条件では広告動画再生時にネットワーク転送頻度が一気に低くなり、本編動画再生時には定期的にデータをWi-Fi経由で受け取るため、バッテリにはあまり優しくないテストと言えるが、これだけのスタミナがあれば外出時に十分な働きをしてくれそうだ。

不満点も残るが、一部では16インチモデルに並ぶ性能を見せる

 キーボードの機構がユーザーの声を反映して大幅に改善され、CPUもIntelの貴重な10nmプロセスなCPUを使っているだけあって、MacBook Pro 13インチモデルの使用感はとても良い。CPUを全力で回すとCPU温度がかなり高くなる点については、機動性を重視した上での割り切りと考えるべきだろう。

 よりコア数の多いCPUを搭載できるMacBook Pro 16インチモデルには圧倒的な性能差をつけられてしまうが、一部の処理では16インチに並ぶ性能を見せた。SSDの搭載量が最低で512GBになって値段据え置きという潔い価格設定もうれしい。

 しかし不満点もないわけではない。上位のMacBook Pro 16インチモデルでは対応済みのWi-Fi 6(IEEE 802.11ax)は13インチモデルでは見送られた(Wi-Fi 5止まり)のはどうにも納得がいかない。Wi-Fiルーター側もWi-Fi 6対応にしないと効果がない装備ではあるが、容量大きめのファイルをWi-Fi経由でコピーするような状況なら、より速度の出しやすいWi-Fi 6が欲しかったところだ。

 総じて、今回のMacBook Pro 13インチモデルは、MacBook Pro 16インチモデルでは重すぎる/機動性に不満があるクリエイターやプログラマーのためのマシンと言えるだろう。CPUが新しくなり、メモリ周りも高速化されたことで重い処理もほどほどにこなせるようになった。

 性能は16インチモデルにおよばないものの、機動性とのバランスを考えると13インチのほうが取り回しが良い。ほどほどの予算でパワーの出せるノート型Macは欲しいと考えているなら、これに買い換えてみてはどうだろうか。

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