マイクロソフトがこの春に発売した2つのワイヤレスヘッドフォン、「Surface Earbuds」(21,800円)と「Surface Headphones 2」(29,480円)のレビューをお届けする。
オーディオメーカー以外、ITプラットフォーマーがヘッドフォンを手掛ける流れは、もはや珍しいものではない。マイクロソフトも、2018年末に初代「Surface Headphones」を発売して以降(日本市場への投入は2019年1月)、ブランド定着と定番化を模索している印象が強い。
昨年1月には、初代「Surface Headphones」のレビューをお届けしているが、今回はマイクロソフトより、新機種2台を同時に借りることができたので、様々な他社製品との比較も含め、その実力を確かめてみよう。
大柄な「Surface Earbuds」、課題は「装着感」
まず、完全な新顔である「Surface Earbuds」から見ていこう。
Surface Earbudsは完全ワイヤレスで、タッチパッドを搭載したヘッドフォンだ。その性質上、スマホやPCとのアプリ連動が重要になっている。普通のヘッドフォンとして使うなら、Bluetoothで接続できる機器ならどれでも問題なく使える。ただし、後述するアプリ対応の観点から、Windows 10、Android、iOSでの利用が推奨される。
特徴を語る前に、パッケージを開けるところから始めよう。それが特徴的をもっともよく示しているからだ。
真四角なパッケージを開けると、当然そこにはSurface Earbudsがある。これを取り外すと、写真のような表示が。
「装着感を確認しましょう」
さらに蓋になっている部分を外すと、中はこんな感じ。充電用のUSB Type-Cケーブルと、2種類のイヤーパッドが現れる。本体には最初から「M」のイヤーパッドが付いているので、S・M・Lの3種類があることになる。
実は、取り外した紙は簡易マニュアルになっていて、接続方法や「耳への装着方法」などが書かれている。アプリのダウンロードURLが書かれたQRコードもある。
Surface EarBudsが「装着感」を強調するのには訳がある。一般的なインイヤー型のヘッドフォンとはちょっと違う作りになっており、それであるがゆえに「装着感」を強調する必要があるのだ。
Surface EarBudsは、他の多くのヘッドフォンとは異なり、耳の穴にヘッドフォンを突っ込むような構造にはなっていない。音導管は入り口くらいで止まり、ヘッドフォンのボディを耳の外側(耳介)のひだの部分にひっかけるような感じにして、「耳介全体で支える」ような感じで装着する。
穴の見える「音導管」を耳の穴に入れるが、奥までは入らないし、それでヘッドフォンが固定されるわけではない。ボディを耳のひだにひっかけて支えるような構造だ。
これがなかなか慣れない。ちゃんと固定されるには、「イヤーパッドが耳のサイズに合っている」、「装着のコツが分かっている」という2つのハードルがある。
耳の穴に入れるわけではないので、従来のヘッドフォンのイヤーチップのサイズとはまた関係していない。耳の穴のサイズは小さめでも、耳自体のサイズは大きめで「L」のパッドがいい人もいれば、真逆の人もいるだろう。左右で差があるかもしれない。意外と左右非対称であることも多いようだ。
つける時には、音導管の部分を下にして耳の穴に入れてから、耳介に引っかかるようちょっとひねる。うまくいくと、安定する位置が見つかるはずだ。
ただ、筆者はこれに難渋した。
どのイヤーパッドを使ってもなかなか安定しないのだ。イヤーパッドを使う場合、「L」にして、マニュアルの指示とは逆に「上」にひねり、耳介の上のほうのひだ(耳介輪)にひっかけるとなんとか安定した。マニュアル通りに装着する場合には、あえてイヤーパッドは外してつけた時が圧倒的に安定した。プラスチックのボディが直接耳にぶつかることになるが、耳へのあたりが強くなるわけでもなく、音的にもほとんど影響はなかった。イヤーパッドを使わないと、汚れが増える可能性もあるし、プラスチックの角が耳に当たることになるので、痛みを感じる人もいるかもしれない。推奨される方法とは言えないかもしれない。
と、このように難渋したのは事実なのだが、ひとたび安定する付け方がわかると、非常に快適であるのは間違いない。装着にも時間はかからないし、耳の穴への圧迫感はもちろんない。それでいて、AirPods Proよりもさらに安定性は高いように思う。自然さも同等だ。頭を振っても、音楽に合わせて踊っても落ちない。
この装着感が、ある意味で最大の価値だ。
逆に言えば、耳に合わないと価値が低くなる。「どうにも安定しない」、「装着に時間がかかる」場合には、正しく装着できていない、といっていいだろう。イヤーパッド周りの作りは、どうにもまだ「経験不足」感が否めない。
装着した写真をご覧いただきたい。サイズが大きいので、つけていると相当目立つ。耳にコインを入れているようだ。操作用のタッチパッドを重視したデザインであるが故のことだが。ライバル2機種と比べると相当に目立つ。これは好みが分かれるだろう。
サイズという点では、充電用ケースにも注目しておこう。意外なことに、充電用ケースのサイズ自体はボディほど大きさが目立たない。というか、今回比較した機種の中では、ソニーのWF-1000XM3がちょっと大きすぎるのだ。Surface Earbudsのケースは、ポケットなどへの収まりもいい、ちょうどいいサイズだと思う。充電やアップデートには、付属のUSB Type-Cケーブルを使うようになっている。
ちょっと気になったのは、ケースの中へのヘッドフォンの収まりが良くないことだ。円形であるがゆえに上下の区別がつきにくく、慣れるまでキレイに「カチャッ」と収まりにくい。ズレていると充電も行なわれないので、ここは少しケースの形状を工夫して欲しかった。
実は「テレワーク」向き? 音楽以上にビデオ会議に向く
次は肝心の音質などについて比較していこう。
今回比較したのは、アップルの「AirPods Pro」とソニーの「WF-1000XM3」だ。どちらもベストセラーで価格帯も近く、比較対象としては妥当だと思う。
ひとつ、スペック上大きな違いがある点を指摘しておきたい。他の2つは「ノイズキャンセル付き」であるのに対し、Surface Earbudsはノイズキャンセルがない。いわゆる開放型に近い構成だ。このクラスだとノイズキャンセルを期待したくなるが、実はその辺、狙いが異なると言った方が適切である。
というのは、わりと周囲の音が聞こえやすいのだ。音漏れはそうでもないが、音量を絞って使っていると、人の話し声なども聞こえる。オフィスなどで「周りも気にしながら使う製品」なのかな、という印象だ。
だが、今のノイズキャンセル型ヘッドフォンだと、周囲の音を取り込んでわざと聞かせる「外音取り込み」系機能を備えているのが一般的で、それらを使うなら、周囲の音が聞こえる構成である必要もない。
というわけで、周囲の音をシャットアウトして使うには、Surface Earbudsは向かない。
では、純粋な音質はどうだろう?
実のところ、悪くない。「傾向が違う」と言った方が適切だろうか。AirPods ProやWF-1000XM3に比べると、音の解像感が足りない気はする。しかし、低音の出方はより好ましい。元気な音、と言ってもいいかもしれない。
Surface EarbudsはaptX HDにも対応しており、対応するPCやAndroidを使うと音質がアップする。とはいえ、それでも解像感も含めた音質の印象は、さほど変化しない。低遅延などを含めたトータルでのクオリティは上がっている感じなので、PCやAndroidでの利用に向いている、という印象は受ける。
面白いのは、マイクを使った「通話音声」は、他の2つより良好だと感じた点だ。電話やビデオ会議をやってみたが、その用途では他の2つより向いている。
音質だけでなく、バッテリー動作時間の点でも「会議向き」だ。耳に着けっぱなしで使った場合、Surface Earbudsのバッテリー動作時間は8時間。AirPods Proの4.5時間、WF-1000XM3の4時間(ノイズキャンセルオンの場合)に比べグッと長い。
自分の経験で言えば、AirPods ProやWF-1000XM3の場合、ビデオ会議を2つ連続でこなすと、バッテリーの持ちが気になってきた。だがSurface Earbudsの場合、ほぼ1日安心して使える。
こうした点を考えても、単純に「オーディオを集中して聴く」というより、「仕事しながら音楽を聴き、会議や通話にも使い続ける」用途に向いている。マイクロソフトでSurface製品の責任者を勉めるパノス・パネイ氏は、「Surfaceブランドであるのはプロダクティビティに集中するための製品、という意味」とコメントしていたが、まさにその通りの内容、と言って良さそうだ。
「Surface Headphones 2」は音質・使い勝手ともに大幅進化
一方、「オーディオ」という意味で明確に大きなジャンプアップがあった製品もある。オーバーヘッド型のノイズキャンセルヘッドフォンである「Surface Headphones 2」だ。第二世代になるわけだが、こちらはとにかく「音質の変化」が著しい。
初代のSurface Headphonesは、「初めての製品としてはがんばっている」と評価できる感じの音だった。解像感不足はあったし、ちょっと低音が強い印象もあった。だが、「使い勝手のいいワイヤレス・ノイズキャンセルヘッドフォン」としては十分おすすめできるレベルだったと思う。
それが、第二世代では音質面での改善が著しい。高音から中音にかけて、ベールがなくなったような「スッキリ感」が生まれた。低音が出なくなったわけでもなく、全体のバランスが良くなった印象だ。
Surface Headphonesは、左右のハウジングが「ボリューム式」になっているのが特徴だ。左のハウジングを“回す”とノイズキャンセルの効きと外音取り込みの調整が行なえて、右を回すと音量が調整できる。これが非常に直感的で使いやすいのだが、この点は第二世代でもそのまま引き継いでいる。
初代モデルの場合、ボリューム式である点は非常に良かったのだが、他の部分でツメが甘かった。
例えば、電源ボタンがボディと「ツライチ」に加工されていて、どこにあるのかが指ではわからなかった。ペアリング以外では「電源ボタンの長押し」を排除し、ボタンを軽く押すだけで電源のオン/オフができたのは良かったのだが、電源を切る時にはわざわざ「目視」しないといけなかったので一手間かかった。
だが第二世代では、電源ボタンがちょっと出っ張った形になったので、指先の感覚で位置を把握し、電源が切れる。これはとても良い。
初代モデルは、ハウジングが「反時計回りに180度」しか回らなかった。そのため、首にかけた時、イヤーパッドの「内側を外に向ける」状態でしか使えなかった。これも気になっていた。それが第二世代では、「時計回り・反時計回りにそれぞれ180度」回るようになったので、首にかける時にもイヤーパッドの「内側は体の側に向ける」かけ方ができた。細かいことだが、これもユーザーの声を聞いての変更ではないか、と思う。
初代モデルのもう1つの欠点としては、「コーデックとしてSBCしか使えない」ことがあった。だが第二世代では、Surface Earbuds同様、aptXにも対応した。これも、音質面ではプラスだ。
Surface Earbudsが「初代モデルの苦悩」を感じる一方、Surface Headphones 2は「二世代目の洗練」を強く感じる。手放しで多くの人に勧められるのはどちらかと言えば、やはりSurface Headphones 2だ。
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June 16, 2020 at 06:15AM
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