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メモリ増量&ワイヤレス充電にも対応した8型タブレット「Fire HD 8 Plus(第10世代)」 - PC Watch

文字通りのフルモデルチェンジ。筐体は横向き前提のデザインに変更

 まずは従来モデルとの比較から。

Fire HD 8 Plus(第10世代) Fire HD 8(第10世代) Fire HD 8(第8世代)
発売年月 2020年6月 2020年6月 2018年10月
サイズ(最厚部) 202×137×9.7mm 202×137×9.7mm 214×128×9.7mm
重量 約355g 約355g 約369g
CPU MediaTek MT8168
クアッドコア2GHz×4
MediaTek MT8168
クアッドコア2GHz×4
MediaTek MT8163V/B
クアッドコア1.3GHz×4
RAM 3GB 2GB 1.5GB
画面サイズ/解像度 8型/1,280×800ドット(189ppi) 8型/1,280×800ドット(189ppi) 8型/1,280×800ドット(189ppi)
通信方式 802.11a/b/g/n/ac 802.11a/b/g/n/ac 802.11a/b/g/n
内蔵ストレージ 32GB (ユーザー領域24.8GB)
64GB (ユーザー領域55.6GB)
32GB (ユーザー領域24.8GB)
64GB (ユーザー領域55.6GB)
16GB (ユーザー領域9.6GB)
32GB (ユーザー領域23.8GB)
バッテリー持続時間(メーカー公称値) 12時間 12時間 10時間
スピーカー ステレオ ステレオ ステレオ
microSDカードスロット ○(1TBまで) ○(1TBまで) ○(400GBまで)
コネクタ USB Type-C USB Type-C Micro USB
価格(発売時) 11,980円(32GB)
13,980円(64GB)
9,980円(32GB)
11,980円(64GB)
8,980円(16GB)
10,980円(32GB)

 2バージョン構成になったものの、両バージョンの仕様はほぼ共通だ。従来の第8世代モデルとの大きな違いとしては、Android 7.1.2ベースだったFire OSがAndroid 9ベースになったことが挙げられる。これは昨年リニューアルしたFire HD 10と同様で、性能の改善につながっている推測される。のちほどベンチマークと併せて紹介する。

 ハードウェアについては、クアッドコアのCPUが1.3GHz→2GHzへと性能の底上げが図られているほか、従来は16/32GBだったストレージも、32/64GBへと改められた。さらにWi-Fiは11ac対応へと進化、対応するメモリカード容量は最大1TBになるなど、細かく手が入れられている。従来モデルで短くなったバッテリ持続時間も元に戻っている。

 外観面では、これまでの縦向き前提のデザインが横向き前提となり、前面カメラの位置が移動したことが大きな特徴だ。従来モデルは見るからに細長く、画面サイズが同等のiPad miniと並べた時にはその縦横比の違いが顕著だったが、今回のモデルはフットプリントもiPad miniに近くなっている。

 Micro USBはUSB Type-Cへと改められているが、急速充電規格のUSB PDには対応しておらず、高速化の恩恵はわずかだ。どちらかというと従来のFire HD 10と同様、まずは規格をType-Cに統一することが目的なのだろう。残るFire 7も、いずれこの方向に沿ってリニューアルされると予想される。

 一方、「Fire HD 8 Plus」と「Fire HD 8」の相違点は2つある。まずメモリ容量。従来モデルが1.5GBだったのに対し、Fire HD 8は2GB、Fire HD 8 Plusは3GBと、大幅に増量されている。性能にどの程度の影響があるかは、のちほどベンチマークと併せて紹介する。

 もう1つ、「Fire HD 8 Plus」のみ対応するのが、ワイヤレス充電だ。専用のワイヤレス充電スタンドを用意することで、本製品をAlexaデバイスとして使うことが容易になるほか、読書スタンドとしても利用可能だ。写真も交えてのちほど紹介する。

従来の第8世代モデルとの比較。画面サイズは同じだが、カメラ位置が移動したことで筐体の縦横比が変更になっている
背面。こちらも横向きを前提とした配置になっていることがわかる
7.9型のiPad mini(第5世代)との比較。画面のアスペクト比は異なるが、カメラ配置の関係で、フットプリントがほぼ同じになった
10.1型のFire HD 10(下)との比較。画面上のメニューまわりや下部のナビゲーションバーの高さが同じせいか、本製品は天地の圧迫感が強い
厚みの比較。左が本製品、右は上から順に従来の第8世代モデル、iPad mini(第5世代)、Fire HD 10。こと厚みに関してはFireシリーズは従来から無頓着だ

レスポンスが大幅改善。Plusと標準バージョンの差はそれほどない?

 続いて電子書籍ユースについて見ていこう。電子書籍の表示サンプルは、うめ著「東京トイボクシーズ 1巻」を使用している。

 本製品は画面サイズ(8型)、解像度(1,280×800ドット/189ppi)が従来モデルとまったく同じで、それゆえ画質も同等だ。コミックの表示については、単ページであれば問題はないのだが、見開きともなるとドット感が目立つ。8型前後のタブレットとして競合になる第5世代のiPad mini(2,048×1,536ドット/326ppi)と比べると、その差は露骨に出る。

縦向きに持った時はコミックの単行本とほぼ同等サイズ。アスペクト比の関係で上下には若干の余白ができる

 その一方、挙動のスムーズさは特筆モノだ。従来モデルの利用経験がありレスポンスを把握している人であれば、使ってすぐに違いが分かるレベルだ。特に電子書籍ユースでは、本を閉じる、開く、ライブラリを開いてスクロールするなどの速度が段違いだ。

 なかにはWebへのアクセス時など、もっさりした動きが残っている箇所もあるが、後述するベンチマークでも、従来モデルとの差は約2.2倍と圧倒的だ。これだけで従来モデルから買い換える価値は十分にあるはずだ。

 ところで本製品には専用オプションとして、ワイヤレス充電規格「Qi」に準拠したスタンドが用意される。本製品をAlexa対応のスマートディスプレイとして利用するのに重宝するほか、動画を閲覧する場合にも活躍する。

 また電子書籍のブックスタンドとしても使える。ワイヤレス充電スタンドに置いた時に自動的にShowモードをオンにする機能は、縦置き時には適用されないので、電子書籍のスタンドとして使いたい場合は縦向きに(つまり単ページ表示で)置くようにすればよい。

ワイヤレス充電スタンド本体。リファレンスの型番は「RJ75-N090110」。汎用のQi規格に準拠しているためiPhoneなどQi対応デバイスの充電も行なえる
横置き時。自動的にShowモードがオンになるのがわずらわしければ、設定でオフにしておくとよい
縦置き時はShowモードは適用されないので、電子書籍やウェブページを表示したままの状態で立て掛けるには最適だ。この状態で充電も行なえる
スタンドの角度は固定で、奥行きもかなりあるのが玉に瑕だ

 ここで気になるのが、Fire HD 8 Plusと、標準バージョンであるFire HD 8の差だ。実はベンチマークで見ると、この両者にそれほど大きな差はない。それどころか、ベンチマークソフトによってはFire HD 8のほうがスコアが上だったりする。

ベンチマークアプリ3DMark「Ice Storm Unlimited」によるスコアの比較。左から、本製品、Fire HD 8(第10世代)、Fire HD 8(第8世代)。なぜかPlusよりもメモリの少ないFire HD 8(第10世代)のスコアが上になっている

 ただ実際に使っていると、Fire HD 8はひっかかりを感じる頻度が高く、実環境でスムーズに使えるのはやはりFire HD 8 Plusのほうだ。Plusはワイヤレス充電にも対応するほか、価格差はわずか2千円しかないことからして、長く使うならばPlusのほうがおすすめだ。

 余談だが、今回のFire HD 8 Plusは標準バージョンと違って一部の国(アメリカ、イギリス、ドイツ、日本)でしか発売されておらず、購入できるのはある意味でラッキーでもある。ベンチマークの値が下なのは多少モヤモヤするが(ちなみにantutuで計測しても同じ現象が起こる)、個人的にはFire HD 8 Plusを選んだほうが納得感は高いと思う。

いまだに横向き画面への最適化

 もっとも、何から何までベタ褒めかと言うとちょっと違う。1つはさきほど述べた、解像度の問題。もう1つは、横向き画面への最適化が徹底されていないことだ。

 本製品はこれまで縦向きが前提だったデザインが、横向きを前提とした配置に改められている。これは本製品をAlexa端末として使用する時、こちらのほうが適しているという判断なのだろう。ビデオ会議や動画の鑑賞なども、横向きがデフォルトだからだ。

 結果として、前面カメラの位置が移動したことで、全体的に細長い印象だった筐体の印象が大きく改められた。以前は本体が細長く、持ちづらく感じることも多かったが、個人的にはこちらのほうが手にフィットするように感じる。また前述のワイヤレス充電スタンドにセットする時も、原則としてこちらの置き方になる。

じつはFireのデザインが横向き前提だったのは本モデルが初ではない。写真の「Kindle Fire HD」など、Kindleストアの日本上陸(2012年)から約2年間に発売されたFireの多くは、横向きを前提としたカメラ配置だった
今回のFire HD 8 Plus(上)と、Kindle Fire HD(下)の比較。ベゼルの幅やUIは大きく異なるが、カメラの配置は一周回って元に戻ったことになる

 ただし現時点では、単に「前面カメラの位置が移動した」というだけで、画面そのものは横向き表示に(いまだに)最適化されていない。

 たとえば画面下部に表示されるホームボタンや「戻る」ボタン、タスクボタンが並ぶナビゲーションバーは、多くのAndroid端末では半透明になったり、あるいは非表示になることで画面を広く使えるよう配慮されているが、本製品はこのナビゲーションバーが常時表示されたままとなるケースが非常に多い。

 ウェブブラウザ「Silk」で電子書籍を表示すると、このナビゲーションバーが表示されたままになるので、天地が非常に窮屈な状態となる。しかもSilkにはブラウザにはよくある「全画面」モードがないので(ヘルプにはあると記載されているが、実際には見当たらない)、ブラウザビューアでの電子書籍の見開き表示には事実上使えない。

ウェブブラウザ「Silk」でKindleのブラウザビューアを表示したところ。全画面表示ができず、下段のナビゲーションバーも非表示にできないため、このような表示になる

 またAmazonビデオでも、アスペクト比4:3の動画を表示した時、このナビゲーションバーが非表示にならず、画面がひとまわり縮小された状態になる。一方、競合であるNetflixで同じ番組を表示すると、ナビゲーションバーはきちんと非表示になり、全画面表示が行なえる。サードパーティで対応していながら純正では非対応という、なんともちぐはぐな状態だ。

90年代に放映された某国民的アニメのオープニング。Amazonビデオ(左)で見ると下段のナビゲーションバーのスペースが空いたままとなる一方、Netflix(右)では全画面表示となる。サードパーティ製アプリのほうが最適化されていることになる

 もう1つ、これも従来からの問題だが、生体認証が用意されていないのもネックだ。本製品は指紋認証および顔認証のどちらにも対応しておらず、セキュリティはパスワードもしくはPINの2択となる。

 いくら自宅で使う用途がほとんどであるとはいえ、家族にもあまり閲覧されたくないというニーズもあるはずで、実利用にあたっては不便だ。独立した指紋センサーを搭載するという選択肢はないにしても、カメラの配置が横向き前提になるのに併せて、顔認証あたりは追加してほしかったように思う。

セキュリティはパスワードもしくはPINのみ。毎回のロック解除が面倒で、セキュリティをかけていない人も多そうだ

間違いなく買い。でも高解像度モデルも見てみたい

 以上のように、性能は大幅に向上しており、快適さについては従来モデルと段違いである一方、横向き画面への最適化はそれほど進んでおらず、ハードウェア主導のリニューアルという印象は否めない。

 ただ、従来モデルではハードウェア性能が足を引っ張っていたのは紛れもない事実で、方向性は間違っていない。前述のように、ベンチマークの数字においては従来モデルと比べて圧倒的な差が出ており、体感的にもまるで違う。以前、第7世代から第8世代へのモデルチェンジで、ハードウェアの性能向上がほぼ皆無だったのとは大違いだ。

 Fireのモデルチェンジのサイクルからして、今後2年近くハードウェアが刷新されないであろうことを考えると、次のリニューアルを待つというのは愚策だろう。第8世代以前のモデル、およびFire 7など下位のモデルを使い続けているユーザは、早いタイミングで本製品に乗り換えるべきだ。そのくらいの価値はある一品だと思う。

 それらを踏まえた上で、次期モデルで進化が求められるのは、やはり解像度の向上だろう。1,280×800ドット(189ppi)という解像度は、動画視聴やAlexaの利用ならばともかく、コミックの見開き表示には力不足だ。かつての「Fire HDX 8.9」に並ぶ、言うなれば「Fire HDX 8」とでも呼ぶべき高解像度モデルを見てみたいのは、筆者だけではないだろう。

6年前のハイエンドモデル「Fire HDX 8.9」(下)との比較。ちなみにこの製品も横向きが前提のデザインで、スクロールすると上部の検索バーが非表示になるなど、天地が広く使えるよう工夫されているが、本製品にはこのUIが継承されていない
「Fire HDX 8.9」は、2,560×1,600ドット(339ppi)と高解像度ゆえ、本製品(左)とのディティールの差は一目瞭然。せめて1,920×1,080ドット程度の解像度は欲しいところだ

 世代を重ねるごとに、タブレットよりもAlexa端末としての色合いが濃くなりつつあるFireだが、メディアタブレットとしてはもうワンランク上の製品も見てみたいところ。前述の横向き画面への最適化も急務だと感じるが、今回のPlusのような派生モデルの可能性が示された今、高解像度の派生モデルにも期待したいところだ。

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