YouTubeなどの動画配信プラットフォームが誰でも気軽に使えるようになり、ゲームやビジネスイベントなどのライブ動画配信が身近になってきた。昨今の社会情勢から在宅時間が長くなった事で、動画を見る時間が増えるだけでなく、“配信する側”に回る機会も多くなっているかもしれない。動画配信の裾野拡大はこれからもますます加速していきそうだ。
ということもあって、これからライブ配信にチャレンジしようという人もいるはず。例えば、ゲーム配信の場合は、ゲーム画面を見せながらトークする、というのがベーシックなスタイルになるだろうか。ただ、もっとライブ感を出そうと思うと、プレー中の自分の姿も見せたくなってくる。欲を言えば、友達をゲストに招いてゲーム大会の様子を配信したり……と妄想が膨らむが、実は1台でもカメラを追加しようとするとなかなか大変。ましてや2台、3台のマルチソース環境となると難易度は相当上がってしまう。なぜなら、必要になる機材やノウハウが段違いに増えるからだ。
それなのに、マルチソースによる動画配信をめちゃくちゃ簡単にできてしまうというハードウェア「LIVE ARISER GV-LSBOX」が、アイ・オー・データ機器から登場した。4つの1080/60p映像を同時に入力でき、映像のスイッチングや合成が可能で、しかも動画配信のためのPCも不要というパワフルなデバイスだ。なお、GV-LSBOXはこのLIVE ARISERブランドの第一弾製品で、今後もLIVE ARISERシリーズとしての製品展開が検討されている。
直販サイトでの価格は11万8,800円(税込)と、PC用ゲームキャプチャデバイスと比べるとちょっと高価だが、GV-LSBOXが持つ機能を知っていくと、実はけっこうお得なデバイスだったりする。どんな風に使えるハードウェアなのか、さっそく試してみた。
GV-LSBOXを使わずに同じレベルの配信をしようと思うと……
GV-LSBOXを紹介する前に、GV-LSBOXを使うことなく、それと同じように4つの映像を入力して、切り替えや合成をしながら動画配信するには、果たしてどんなものが必要になるか考えてみよう。
まず、動画配信するためのPCが不可欠だ。PCで4つの映像入力を処理できるように、1台数万円するHDMIキャプチャデバイスも4つ用意しなければならない。配信するPC自体でゲームをする場合でも、キャプチャーデバイスは3つ必要だ。それらの映像をYouTubeなどの動画配信プラットフォームに送り出すには、OBS(Open Broadcaster Software)のようなPC用のソフトウェアを使いこなす必要もある。
動画配信にはそれなりに高い処理能力が求められるので、配信用PCのスペックにも注意すべきだし、映像のスイッチングやワイプ(ピクチャー・イン・ピクチャー)などと呼ばれる凝った映像処理を簡単に行なうならプロ向け機材の導入も検討したい。最低でもトータルで20万円、30万円という出費は覚悟することになりそうだ。
ゲーム画面だけの配信であれば、最近のコンシューマーゲーム機やゲーミングPCでは、OSやグラフィックカードの基本的な機能として用意されているので、追加のコストなしに気軽にゲームのライブ配信を始められる。けれども、そこにカメラ映像を追加しようとすると、難易度がかなり高く、環境を整えるコストも大きなものになるわけだ。
本来なら手間もコストもかかるマルチソースのライブ配信。それをたった1台のハードウェアで実現できるのがGV-LSBOXなのである。
GV-LSBOXによるライブ配信の手順
GV-LSBOXを使ってライブ配信するのに必要な手順は、大まかには以下の3つのステップとなる。それぞれの細かな作業内容にも難解なところはない。
- 1. ゲーム画面やカメラ映像をHDMIで入力する
- 2. 設定用の画面で動画配信に必要な情報を入力する
- 3. 動画配信を開始する
【1. カメラやゲーム画面の映像をHDMIで入力する】
正確には、映像ソース(ゲーム機やPC、カメラの映像)を最大4つまでHDMI入力し、別途必要であれば各HDMI入力の上に設けられた3.5mmのマイク端子に音声入力する。ゲーム機のサウンドはHDMI入力した信号に含まれるが、例えば、別途用意したマイクに自分がしゃべった音声も入力したいならマイク端子に接続するわけだ。
また、GV-LSBOXが単体で動画配信できるように、LANケーブルも接続してインターネットにアクセスできる状態にしておく。後述する設定画面を操作するためのキーボードとマウスもUSB接続しておこう。
【2. 設定用の画面で動画配信に必要な情報を入力する】
GV-LSBOXには2つのHDMI出力端子とライン音声出力もある。HDMI出力のうち一方の「PGM」と表記されている端子は、配信される映像と同等のものが出力される映像確認用のもの。「MULTI VIEWER」と表示されているポートは、GV-LSBOXのプレビュー・設定用の画面が出力されるもので、最初にここで各種設定を行なう。ライン出力にはヘッドフォンなどを接続することで、配信される音声をチェック可能だ。
プレビュー・設定画面では、入力された4つの映像と配信映像の計5画面のプレビューに加え、それぞれの音声レベルをチェックできるが、その確認とともに最低限設定しなければいけないのは「設定」画面の「配信」の項目。GV-LSBOXに接続したキーボードとマウスで操作し、配信プラットフォームのプロトコルやサーバーアドレス、ストリームキー、アカウント情報などをセットにした「プロファイル」を作成する。
例えばYouTubeなら、いったんPCでYouTube Studioにアクセスし、「ライブ配信を開始」から配信設定ページを確認する。このとき表示されるストリームキー、ストリームURLをメモしておいて、自分のYouTubeアカウントの情報とともにプロファイルに設定するわけだ。ひと通り入力したら「プロファイルを保存」して、そのプロファイルを配信先としてセットすればよい。これで配信準備は完了だ。
なお、この製品はRTMP配信形式に対応し、最大3ストリームまで同時配信できる。例えば、YouTubeとニコニコ動画、Twitchで、同じ映像を同時に配信できたりもする。
【3. 動画配信を開始する】
ライブ配信を開始するには、設定画面の「配信開始」ボタンをクリックするか、GV-LSBOXの正面にある「STREAM」ボタンを押す。ただ、それだけだと実際の配信はスタートしない(一般の人が視聴できる状態にならない)ので、YouTubeの場合はPCで表示している配信画面の「ライブ配信を開始」ボタンをクリックする。GV-LSBOXで配信ボタンを押した後、YouTube側で映像が安定して届き始めたことを確認してから「ライブ配信を開始」するといいだろう。
1カメ、2カメ、3カメでゲームのライブ配信にチャレンジ
というわけで、まずは自宅でGV-LSBOXを使い、YouTubeのライブ配信にチャレンジしてみた。筆者はまともなライブ配信の経験が少なく、当然ながらGV-LSBOXのような配信に特化した機材に触れたのも初めて。それでも、付属の説明書を読みながら、とりあえずPS4のゲーム画面と自分の姿を映すアクションカメラ1台の映像をGV-LSBOXに入力し、YouTube Studioで設定して、あっさりとライブ配信が始められてしまった。
配信用のPCが不要というのは、やはりライブ配信を始めるうえではかなり大きなポイントだ。過去にPC用の配信ソフトのOBSを何度か試したことはあったが、設定方法や使い方のコツを覚えるまでにあれこれ試行錯誤して、半日くらい時間をかけていたことを思い出す。
GV-LSBOXであればそういう手間を一切かけることなく、ライブ配信の開始まですぐにたどりつける。スイッチングやピクチャー・イン・ピクチャーのようなレイアウトもボタン一発。それだけで、動画のコンテンツとしてのクオリティがハイレベルになる気分だ。
では、より多くのカメラを使った本格的な配信に使えるだろうか? 実際に、インプレスWatch編集部がゲーム配信番組などを行なっているライブ配信スタジオにお邪魔して、そこにGV-LSBOXを設置。ゲームをプレイしてみた。
照明設備や撮影機材が整っていることもあり、2つのカメラ(+ゲーム映像)を使った配信セッティングもスムーズに完了。十分に広い部屋なので、マルチカメラにした場合のアングルの自由度が高く、4映像入力のGV-LSBOXの能力をいかんなく発揮できる。
カメラが複数台あると、ゲーム画面、実況者の顔、さらにコントローラーを持つ手元のアップといった映像も配信できる。プレーヤーの他に、解説者などを招いて、2人が会話しながら配信するような番組も作れてしまう。
4画面を活かして、自転車で走る自分の姿をかっこよく配信!
これだけ簡単に配信ができると、ゲーム以外にも、“こんな番組を配信したら面白そうだ”と、様々なアイデアが湧いてくる。気軽に外出ができない昨今、運動不足になりがちだが、筆者はその打開策としてスマートサイクルトレーナー「Wahoo KICKR」を使った、仮想サイクリングソフト「Zwift」の実況プレーに挑戦してみた。
仮想空間で走る「Zwift」の画面に加え、3台のカメラを用意。カメラが3台あるので、狭い部屋ながらケーブルの引き回しに苦労はしたが、手間をかけたぶん、筆者の顔を映すカメラと自転車をこぐ姿を真横から捉えたカメラ、そして部屋全体を引きで捉えたカメラというセッティングが実現。
殺風景な部屋の中、必死の形相の汗だくの筆者がペダルを回しまくる、誰も得しないシュールな映像を堪能いただけるコンテンツに仕上がった。
自転車をこぐので一杯いっぱいなこともあって、4つの映像を自動でループさせる機能が便利。ただ映像ソースが4つあると、1画面を4等分して表示するレイアウトが思った以上に賑やかで、楽しい。配信画質を高めに設定しておけば、ゲーム画面の小さな文字でもしっかり視認できるほどの解像感だ。映像を切り替えず、常に4画面表示にして配信するのもいいかもしれない。
なお、GV-LSBOXでは4つあるHDMI・マイク入力のうち、配信映像として選択されている映像ソースの音声のみが生きる形になる。たとえば、いずれかの映像入力1つをフルスクリーンで表示するレイアウトだと、その映像ソースの音声だけが出力される。ピクチャー・イン・ピクチャーだと選択している2つの映像の音声が出力され、4分割表示ではすべてのソースの音声が聞こえるわけだ。各ソースごとにHDMI・マイク入力それぞれの音声レベルも調整できる。
ただ、ゲーム配信の場合は、どの映像ソースをどのレイアウトで表示していても、“ゲームのサウンドや自分の声は常に配信されるようにする”のが難しい。配信時のレイアウトはある程度固定にしておいて、常に見せておきたい映像ソースを決め、そこに音声入力をまとめる、といった運用がシンプルでいいだろう。
PCに詳しくない人でも気軽に配信。企業のオンラインイベントにも重宝
GV-LSBOXの最大のポイントは、PCに詳しくない人でも気軽に配信ができるという点だ。今回は個人でのゲーム配信などに挑戦してみたが、例えば、貸しスタジオやゲーミングカフェなどの設備としてGV-LSBOXを導入すれば、そこに訪れるYouTuberやVtuberに興味がある人、ゲーム配信初心者が、配信設定済みのGV-LSBOXを使い、気軽に“自分の配信”をスタートできる。4入力もあるので、例えばスポーツ大会の配信、囲碁将棋や麻雀など趣味の教室の楽しみの1つとして、ネット配信機能を加えるなんてシーンでもGV-LSBOXは役立つだろう。
ちょっと専門的な話になるが、GV-LSBOXはRTSP形式、HLS形式、TS形式の配信にも対応しており、同一ネットワーク内での配信であれば、YouTubeなどの配信プラットフォームを“介さない”映像送信もできる。例えば、学校や病院内での映像配信といった用途が考えられるだろう。新型コロナウイルスの影響で、企業の発表会や説明会などの中止も相次いでいるが、そうしたイベントをオンライン配信するツールとしても注目だ。
映像4入力のスイッチング、合成、ライブ配信、録画が丸ごと1台でカバーできるLIVE ARISER GV-LSBOXは、超強力な配信ツールと言える。値段を考えるとライブ配信入門者には手が出にくいかもしれないが、簡単・手軽に配信を始められ、なおかつ“カメラを追加してマルチソースの本格配信に挑戦したい”と思った時にも、カメラを増やすだけで即座に対応できる。段階的に配信環境を充実できるという点でも、最初に導入しておいて損はなさそうだ。
既にライブ配信や動画投稿を趣味にしていて、さらなる配信環境のアップグレードを検討している人にとっては、ベストな製品であることは間違いない。リアルイベントからオンラインイベントに切り替えることになったが、できるだけコストを抑え、なおかつ簡単な操作で実現したいと考えている企業にとっても、LIVE ARISER GV-LSBOXは有力な選択肢になるのではないだろうか。
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April 10, 2020 at 06:00AM
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