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小惑星探査機「はやぶさ2」観測成果論文のNature誌掲載について - 宇宙航空研究開発機構

小惑星探査機「はやぶさ2」観測成果論文のNature誌掲載について

2020年(令和2年)3月17日

国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
学校法人 立教学院 立教大学
学校法人 足利大学
学校法人 千葉工業大学
公立大学法人 会津大学
国立大学法人 北海道教育大学
国立大学法人 名古屋大学
German Aerospace Center(DLR)
Max-Planck Institute for Extraterrestrial Physics
University of Stirling

 小惑星探査機「はやぶさ2」による小惑星Ryugu(リュウグウ)の探査活動に基づく研究成果をまとめた論文が、イギリスの科学雑誌Nature電子版に2020年3月16日(日本時間3月17日)に掲載されましたので、お知らせします。
 論文の内容は次の通りです。

隙間だらけの小惑星、リュウグウ

1.概要

 小惑星探査機「はやぶさ2」到着前の予測に反し、小惑星リュウグウは隙間だらけの物質でできた天体であることがわかりました。
 リュウグウのようなC型(炭素質)に分類される小惑星は46億年前の太陽系形成時の始原的物質を保存している「化石」と考えられています。しかし、どんな物質がどのように集まって形成した天体なのかは、ほとんどわかっていません。
 研究チームは「はやぶさ2」に搭載された中間赤外線カメラ(TIR)を用いて、史上初のC型小惑星の全球撮像を連続1自転分実施し、取得されたデータを解析しました。その結果、表層の岩塊も周辺土壌もほぼ同じ温度であることがわかりました。また、温度の日変化は小さいこともわかりました。このことから、リュウグウ表面は温まりやすく冷めやすい(熱慣性が極めて低い)物質で覆われていることがわかります。すなわち、リュウグウ地表の岩塊も周辺土壌も多孔質な物質だということを示唆しています。
 地球のような岩石天体は、太陽系初期にふわふわのダストが集まって成長し形成したと考えられています。しかし、マイクロメートルサイズのふわふわとした(密度の低い)ダスト粒子から密度の高い岩石天体へとどのように成長するのかは、解明されていません。本研究成果から、リュウグウはふわふわのダストから稠密な天体が形成する過程の途中にある天体かもしれないことがわかりました。

図1

図1:左の図は小惑星リュウグウの1日の最高温度の分布。
右のグラフは、各地点で観測された一日の温度変化(□マーク)と理論計算に基づく予測値(実線と破線)の比較。
理論計算では一様な熱慣性を仮定し熱慣性の値を変化させて計算している。

©Okada et al., Nature 2020

2.本文

 小惑星探査機「はやぶさ2」は始原天体と考えられるC型小惑星を探査し、(1)太陽系初期にどのような物質があり、惑星が形成するまでにどのように変化したのか、(2)ダストから微惑星、微惑星から惑星へと、天体はどのように進化したのか、これら二つを明らかにすることを研究テーマとしています。本研究ではテーマ(2)にチャレンジしました。その方法として研究チームが注目したのが中間赤外線カメラTIRによる撮像、つまりサーモグラフィです。すべての主要な地形や地質構造を検知でき、季節変動も調べることができます。研究チームは史上初のC型小惑星の全球撮像を連続1自転分実施しました。理論計算により、リュウグウの熱慣性(温まりやすさ、冷めやすさの指標で熱慣性の値が小さいほど温まりやすく冷めやすい)を調べたところ、予想に反し非常に小さな値(隕石の一種である炭素質コンドライトやその他地球の石に比べて非常に小さな値)になりました。より詳しくモデル計算と比較すると、リュウグウは極めてスカスカ(高空隙)で凹凸が激しいことがわかりました。また、岩塊と周辺土壌が同じ温度であることから、いずれもスカスカの物質であることがわかりました。岩塊と周辺土壌で観測された温度日変化は小さく、さらに、両者でほぼ同じ温度の日変化を示します。これは岩塊と周辺土壌が熱的に同等の物質であることを示す結果で、予想外の結果でした。
 TIRの観測ではコールドスポットと呼ばれる、周囲よりも20度以上も温度が低い岩塊を複数発見しました。これらの熱慣性は、地上で発見された炭素質コンドライトと呼ばれる隕石と同程度で、密度も同程度だと推測されます。

図2

図2:リュウグウ形成のシナリオ

©Okada et al., Nature 2020

 以上の観測結果から、リュウグウの形成シナリオは次のように推測されます。まず、(1)ふわふわのダストが集まって成長し、(2)微惑星が形成します。この微惑星は密度が低く、スカスカな状態です。(3)さらに微惑星が成長し、高空隙であまり熱進化もしていなかったと思われる母天体が形成します。母天体の中心部はやや圧密されたかもしれません。そして、(4)天体衝突により母天体が破壊されます。母天体の外側の物質は飛散し、中央部の物質も露出します。(5)飛び散った岩塊は再度集積し、ラブルパイル天体が形成します。大部分は高空隙な岩塊ですが、圧密を受けたものも含まれ、表面に露出します。この天体の自転は比較的速く、赤道付近が膨らんだ形状となります。(6)その後、何らかの理由で自転が遅くなり、軌道も変化し、現在のようなリュウグウとなりました。TIRで発見された低温の岩塊は、母天体の中心部で圧密を受けた物質か、もしくは、母天体に衝突してきた天体を起源とする可能性があります。
 隙間だらけの小惑星リュウグウは、原始太陽系でふわふわのダストから密度の高い天体が形成するその途中過程を具現しているのかもしれません。

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