[ベルリン 18日 ロイター] - 中国の電気自動車(EV)メーカー各社は、国内で外国勢に対する優位を確立した勢いを駆って欧州市場に進出しつつある。だが、そこで新たな試練に直面している。
比亜迪(BYD)や上海蔚来汽車(NIO)、上海汽車(SAIC)傘下のMGモーターなどに突きつけられているのは、欧州市場における重い輸入コストへの対応や、中国製品は低品質との固定観念をいかに払拭できるかといった課題の克服だ。
滑り出しは前途洋々だった。欧州で今年これまでに販売されたEV新車のうち、中国ブランドの比率は8%で、昨年の6%や2021年の4%から着実に高まっていることが、自動車コンサルティングのイノベブのデータで分かる。
また、アリアンツの調査によると、2025年までには少なくとも新たに11種類の中国製EVが欧州に投入される。
これには西側メーカーも動揺を隠せず、ステランティスのカルロス・タバレス最高経営責任者(CEO)は先月、欧州に安価な中国のEVが「侵攻」してきたと警鐘を鳴らした。
ただ、欧米各社も反撃の構えを見せ、続々と新たなEVを投入するとともに、コストや価格の引き下げを計画している。つまり中国勢は全力を振り絞っての競争を強いられるだろう。
中国汽車工業協会(CAAM)の陳士華副秘書長は先週、このままでは中国メーカーの事業拡張計画があまりにも厚みを欠いたものになりかねないと指摘。「各メーカーにとって、グローバル展開は円滑には行かない。リスクに注意を払わなければならず、現状では手を広げすぎで、はっきりした重点を置かずに全ての地域に乗り込もうとしているのではないか」と苦言を呈した。
<コスト増要因>
中国のEVメーカーは今年9月、ドイツ・ミュンヘンでの国際自動車ショーのイベントの一部として「世界新エネルギー車会議」を開催する。同会議を中国以外で開くのは初めてで、欧州市場により深く食い込もうとの意図が透けて見える。
中国勢の最大の強みは価格にある。中国における昨年前半のEV平均販売価格は3万2000ユーロ(3万5000ドル)弱で、欧州の約5万6000ユーロよりずっと安い。
だが、欧州において中国ブランドが、本国と同じ価格を設定するのは難しくなりそうだ。
吉利汽車のEVブランド「Zeeker(ジーカー)」の欧州最高経営責任者(CEO)を務めるスピロス・フォティノス氏は、物流や売上税、輸入関税、欧州独自の認証基準達成といった要素が全てコスト増につながると解説する。
欧州で最も売れている中国ブランドのMGは、中国から長い時間をかけて貨物が滞留する港湾を経由して欧州の販売店まで自動車を輸送するのが、最も困難な作業だとした。
中国新興EVメーカーの愛馳汽車(Aiways)で海外部門を統括するアレクサンダー・クローズ氏は、欧州の消費者の好み、例えば長距離走行を可能にする大型電池を求める点などもコスト増をもたらすかもしれない、との見方を示した。
<信頼獲得への長い道のり>
中国ブランドでもMGなどは有名だが、NIOや小鵬汽車(Xpeng)などは、まず消費者の信頼感を得るところから始めなければならない。
さまざまな調査によると、欧州の潜在的なEV購入者の大半は中国ブランドを知らないし、知っている人たちも購入には消極的だ。
これは日本や韓国のメーカーが何十年もかかった信頼獲得と欧州独自の嗜好性への適応という苦難の道のりを思い起こさせる。
ユーガブが昨年、ドイツの消費者1629人を対象に実施した調査では、テスラに次ぐ欧州EV市場シェアを誇るBYDでさえ、認知率はわずか14%にとどまった。NIOの名前を聞いたことがあると答えたのは17%、Xpengの認知率は8%だった。
テスラの認知率は95%で、その10%が次に買う車として検討していると回答。一方、中国ブランドを知っているとした人のうち、購入を考えていたのは1%かそれ未満だったという。
こうした中でAiwaysは、欧州の消費者が中国製品を買うことにためらいを持つのではないかとの懸念から、根強く残る中国製品への評価の低さを否定する広報宣伝活動を展開することを決めた。
複数の中国メーカーは、欧州の安全評価基準で、法的な要件よりもずっと高い最上位を取得し、顧客の疑念を晴らそうとしている。
Zeekerのフォティノス氏は、試乗やショールームで同社の品質を欧州の消費者に体感してもらうことで信頼を得ていくと述べた。
中国国内EV市場でシェア第3位の広州汽車(GAC)は、イタリア・ミラノに設計拠点を開設し、販売事業に先立って現地消費者の好みを把握しようとしている。
Aiwaysのクローズ氏は「(固定概念を持たれるのを)避けるには、競争を受け入れるしかない」と話した。
(Victoria Waldersee記者)
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