スマートフォンを選ぶ上で、カメラ性能が基準の1つになっているという人は多いだろう。そこで今回は、スマートフォンのカメラの進化についてまとめてみようと思う。スマートフォンのカメラは、これまでにどんな進化を遂げ、今後はどこに向かっていくのだろうか。
「スマホでしかできない撮影体験」を可能にした複数カメラ
スマートフォンのカメラ性能はここ5年で飛躍的に進化した。中でも複数カメラを使用したアプローチは、スマートフォンにおけるカメラの考え方を大きく変えた。
2017年頃から2つ以上のカメラを使えるスマートフォンが増え始めた。当初はアウトカメラとインカメラの同時使用などに限られ、今のような深度センサーやアウトカメラで合成処理を行う例はまれであった。

現在では「深度センサー」が多くのスマホに採用されており、安価な機種でも「ボケ」エフェクトが利用できるようになっている。深度用のカメラは高性能なものである必要はないため、安価にマルチカメラ化ができるようになっている。
スマートフォンでしかできない撮影体験として、ステレオカメラといわれる新しいタイプのものも現れた。こちらは「HUAWEI P9」がアピールしたもので、カラーとモノクロのセンサーを搭載し、それぞれのセンサーから得た情報を合成して出力するものだ。
このような処理は今で言うコンピュテーショナルフォトグラフィーと呼ばれる分野の先駆けであり、複数のカメラで得た情報をスマートフォンの高性能なプロセッサで処理し、最終的な写真を出力するものである。
これらの処理は当初は独自チップセットにて行われていたが、QualcommのSnapdragonが対応すると、マルチカメラ搭載機種が一気に登場する。それでも一部特殊な処理をする機種に関しては、別途独自のプロセッサを搭載するなどして対応している。

最新のSnapdragon 8 Gen1では最大3つのカメラの同時使用をサポートしている。よりシームレスなズーム処理や、画像の合成処理が可能になる。カメラ特化機種ではデジタルズーム域において、標準レンズと望遠レンズを同時に使用し、出力時に合成することで画質劣化を抑える処理をしているものもある。
AI処理という新たな武器と高画素化、センサーの大型化が進む
複数カメラを搭載し、新たな撮影体験を可能にしたスマートフォン。近年ではこれに加えて、AI処理性能が求められている。写真や動画撮影においてもAI補正は露出の調整などにとどまらず、ディティールの再現やノイズ処理などにも大きく関わる。従来あるシーンセレクトの上位互換ともいえるものだ。
それらの性能を大いに発揮したものが、高性能なHDR撮影や夜景モードだ。これはマルチフレーム合成ともいわれるもので、露出の異なる写真を複数枚撮影し、それを合成してノイズ処理や手ブレ補正などの処理を行うものだ。
夜景モードを含めた高度なAI処理、複数カメラ同時使用を可能にしたスマートフォンは撮影体験を飛躍的に向上させた。
一方で、ソフトウェアのみならずイメージセンサーの大型化、高画素化とスマートフォンのハードウェアも進化を遂げた。この流れの発端は、HUAWEI P20 Proが1/1.7型、4000万画素のスペックで市場から高い評価を受けたものであったと考える。このセンサーがソニーとの共同開発であったことから、資本力のある中国メーカーはこぞってソニーやサムスンといったセンサーベンダーとセンサーやカメラモジュールの共同開発へ踏み切っている。
イメージセンサーの大型化は画素ピッチ幅を稼ぐためにも重要だ。網戸の目の細かさで部屋の明るさが変わることに例えると分かりやすい。この幅が大きいものは、暗いところでも多くの光を取り込めるため、夜景などの撮影では大いに効果を発揮する。
センサーの高画素化についても同じように進んだ。画素数はカメラ性能を比較する上でも分かりやすい数字であり、2019〜2020年にかけて市場には「4000万画素」といった文字を見かけるくらいには関心も高いものになっていた。
この分野ではソニーが4800万画素のセンサーを発表。次いでサムスンが6400万画素、1億画素の製品を立て続けに発表するなど、高画素化は一気に進んだ。これらの高画素イメージセンサーは常に高画素で撮影するのでなく、複数の画素を1つにして処理する。例えばソニーの「IMX586」は、隣接する4画素が同色のカラーフィルターであるQuad Bayer配列と、4つの画素を1つの画素として使用するピクセルビニング処理により、画素ピッチを確保。これにより、1200万画素で出力されながら、暗所撮影時のノイズ低減、高画素化による被写体ディティールの維持を両立した。
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市場のニーズと他社との差別化から生まれた「カメラ強化」のトレンド
最後に、スマートフォンのカメラを取り巻くトレンドを考察してみようと思う。スマートフォンのカメラは、なぜここまでの進化を果たしたのか。
1つは、スマートフォンが成熟した点だ。スマートフォンもPC同様、コモディティ化が進み、デザインは異なれど「何を買ってもできることは同じ」ところまで進化した。一方で、カメラ性能は画面性能やプロセッサ性能よりも、視覚的に訴えるものであるため、体感的な機能向上が大きなものになる。
これに関してはメーカー側も意識しており、高性能なスマートフォンから「何か武器を持ったスマホ」を出さなければ市場で存在感も示せず、消費者にも受け入れてもらえない。コモディティ化からの脱却を図ろうと各社模索していたのだ。
特にHuaweiがライカと組んで「カメラを武器」にして差別化を図って以降、各社「カメラフラグシップ」とも呼べるスマートフォンを展開することになった。
もう1つはデジタルカメラの市場縮小による、撮影デバイスのスマートフォンへの置き換えが進んだことが大きい。デジタルカメラの市場はスマートフォンにシェアを奪われる状態が続いている。高度に進化したスマートフォンは、普及価格帯のデジタルカメラの機能を取り込んでスマートフォンへの一本化が進む状態だ。
これまでスマートフォンでは難しいといわれていた大型センサー、明るいレンズを用いたボケ表現、ズーム性能といった部分ですら、スマートフォンが追従してきている。夜間性能は夜景モードを使われてしまうと、普及価格のデジタルカメラではかなり厳しいものとなり、三脚不要の手軽さの点でスマートフォンに負けてしまうのだ。加えて仮想的にボケ量を変化させる機能、機種によってはレンズの玉ボケをエフェクトで出せるスマートフォンまで存在する。
一般的なカメラを参考に性能を強化してきたスマートフォンは、高性能な画像処理を武器に全く別の考え方を持つカメラに進化した。複数枚合成や、AI補正などをはじめ「見たままの世界を切り取るデジタルカメラの考え方」とは異なるものであるが、多くのユーザーが求める「簡単に、手軽に、きれいに撮れる」という分野において、スマートフォンは唯一無二のポジションに来たように感じる。

これらに加えて、Instagramのような写真SNSといわれる存在の台頭は大きい。現在では写真等をアップロード、共有できるミニブログや共有サイトなどのサービスが広く一般に浸透している。これらのサービスの特徴として、第三者から評価してもらいやすい点が挙げられる。「インスタ映え」という言葉が生まれるくらいには、写真を「見てほしい」と感じるユーザーが増えてきているのだ。
加えて、Instagramなどは写真共有とともに日々の記憶、いわゆる「ライフログ」を残すと言った用途でも使用されている。作品を共有する場ではなく、何でもない日常をアップロードして外部記憶にとどめるような使い方だ。誰でも閲覧可能な共有アルバムという見方でいいだろう。
そのような中で、ユーザー側にも「SNS用の写真にもクオリティーを求める」層が一定数出てくる点は自然なことだ。近年ではSNS側も高画質な写真をアップロードできるようになるなど、スマートフォンで高画質に撮影できることに越したことはないのだ。
思い返せば、ソニーが「レンズスタイルカメラ」を発売し「スマホ時代のコンデジ」を模索していた。パナソニックも「LUMIX CM10」というAndroid OS搭載のコミュニケーションカメラを発売するなど、「カメラ性能の高いスマートフォンのようなものが欲しい」という市場の声はかつてからあった。
Instagramなどのサービスが展開されていない中国でも、「ダーカー」という写真をWeiboなどでよく見かける。これはタイムカードの記録をするなどの意味となるが、中国ネット上では転じて「日々の記録を残す、共有する」「流行地を発信する」意味で使われている。日本でいうなら「インスタ映え」に近い表現といえる。
中国メーカーのスマートフォンが特にカメラ性能に注力するのも、このような写真をきれいに撮影でき、即共有できるスマートフォンが市場から求められていると考えられる。
これ以上のセンサー大型化は難しい中、次のトレンドは?
スマートフォンにおける撮影体験は、そろそろ次の時代が来ると考える。高度なAI処理を駆使した画像処理は発展の余地があるが、イメージセンサーの大型化は端末本体のサイズや重量増加に直結する。
加えて、光学式手ブレ補正などの機構を搭載すると、本体の厚さも無視できないものになる。それこそ「スマートフォンの形」が根本から変わりでもしない限り、センサーサイズは頭打ちになるはずだ。 ハードウェア単体での進化はあるものの、ここ数年に比べたら進化は小幅になるのではないかと考えられる。
画像処理でスマートフォンの撮影体験を大きく変えたHuaweiも、自社ブランドである「XMAGE」を発表し、今後発表されるスマートフォンに採用される見通しとなっている。画像処理に関しては制裁下でも評価が高く、いまだコンピュテーショナルフォトグラフィーのトレンドの最先端にいると考える。
コンテンツもInstagramをはじめとした画像SNSが4G時代のものであるとすれば、5G時代は動画SNSが一般化するのではないかと考えられる。TikTokやYouTube Shortといった「縦動画SNS」が代表例に挙げられ、Vlogも1分程度で「今日の出来事を語る」といったライフログ的側面での利用も見られる。
そのような時代のスマートフォンに求められるものは、強力な手ブレ補正、リアルタイムHDR合成といった部分は今までと大きく変わらない。これに加えて、マイクの風切り音補正、使用者の声のみ拾い上げる処理などにも力を入れてくるはずだ。背景切り抜き処理、3Dスキャン性能、高度なトラッキング性能といったXR要素もスマートフォンでの採用が予想される。
最も手軽なコンピュータであり、カメラであり、情報発信ツールであるスマートフォン。カメラ性能に限らず、今後の進化に目が離せない。
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