「仕事の9割は計画で決まる」とよく言われるが、製品化においてもまさにその通りであり、日程を立てそれを随時管理していくことが大切だ。筆者はモニターやプロジェクター、プリンタを設計し、製品化してきた。モニターにおいては1製品の全てのメカ(機構)部品を設計し、プロジェクターにおいてはランプの発熱による高温化を一定温度に抑える冷却設計を担当した。
モニターにおいては、約70点あるメカ部品を効率良く設計、試験・評価して、量産部品を作製することがアウトプットである。プロジェクターにおいては、数十種類ある温度試験などを効率良く実施して、その結果を設計した冷却部品の形状と配置に反映させることがアウトプットである。
そして、それらの段取りを電気(基板の設計)やソフトウェアの設計者、品質保証などの関連部門、協力メーカーと調整し、さらに展示会や法規制認証申請などのイベントとの整合もとりながら日程を考えていく。また、メカ設計の業務において、最も長い期間を要するのが金型作製であり、この日程についても併せて考える必要がある(図1)。
このように、設計者仲間や関連部門、協力メーカーなど、多くの関係者と協力して設計を進める必要があるため、一度日程を決めると簡単にそれを変更することはできない。よって、日程作成は数日を費やして慎重に取り組まなければならない。
プリンタでは部品点数が数百点に上り、用紙のピックアップとその送り機構、インクカートリッジやインクヘッドの設計、ヘッドのメンテナンス機構などの多くの設計カテゴリーがあり、関係する設計者も多い。よって、日程の作成はより複雑なものになる。
製品化の日程に関する4つのブロック
製品化の日程は、大きく次の4つのブロックに分けられる。
- 構想
- 試作とその試験・評価
(量産部品メーカーの選定) - 量産部品での試作とその試験・評価
(法規制認証の申請) - 量産
※既に量産メーカーが決まっている場合は「量産部品メーカーの選定」は必要なく、法規制認証が必要ない製品は「法規制認証の申請」は必要ないのでカッコ書きとした。
製品化の難易度によって、「試作とその試験・評価」と「量産部品での試作とその試験・評価」は複数回繰り返されることもある(図2)。
1.構想
「構想」には、主に次の3つの要素がある(図3)。
- 企画
- 原理試作
- 設計構想
「構想」の最初には、「企画」がある。「企画」を簡単な言葉で表現すると「このような世の中を作り出すために、こんな製品を作りたい」といった“志”のことである。筆者がかつて勤務していたソニーの「ウォークマン」でいえば、「音楽を手軽に外に持ち出して好きな曲を聞ける世の中にするために、ラジカセとヘッドフォンが一体になったハンディーな製品を作りたい」ということになる。もちろん、「企画」の内容はこれだけではなく、それを実現するために必要な仕様(「ウォークマン」でいえば、ポケットに入る大きさなど)を決めなければならない。
次に大切なことは“コスト”である。ユーザーが手を出せないほど高価であっては売れないし、売れば売るほど損をしてしまう状況も避けなければならない。そこで、材料費などが含まれた“採算の取れるコスト構成”を考えねばならず、そのために次の数値が必要となる。
- 何個販売したいのか?
- 何人で製品化したいのか?
- 設計開始から販売までどのくらいの期間で行いたいか?
筆者がこれまで関わってきたベンチャー企業のほとんどは、製品化したい技術と製品のイメージは持っている。逆に言えば、それを持っているから起業したのである。しかしながら、前述の“志”と“コスト”の意識がなかったばかりに、協力者が付いて来ず、コストの採算も取れない……という状況を多く見てきた。よって、「企画」には他にも大切な要素は多くあるが、ここでは“志”と“コスト”の重要性をお伝えした。
「原理試作」は後述するとして、次は「設計構想」である。これは「企画」の内容に対して、実際に設計を行う設計者が「現実的には、このような製品が作れる」という方向性を示すものである。エンジニアの視点から、そのときの技術動向や入手できる部品/デバイス、設計・製造におけるツールや設備、与えられた日程などから構想を練る。設計者の設計スキルや知識は、まずここに反映される。また、「企画」の内容には含まれていなくても、ぜひここに“設計者のチャレンジ”として、「製品質量○○kg以下の業界最軽量」や「業界初の新機構・新素材」のような要素を加えたい。設計者のモチベーションが高まるとともに、これが技術の進歩につながっていくからだ。
「原理試作」は前述の「設計構想」を考える過程において、設計者が全く新しい機構や構造を考えていたり、全く新しい部品やデバイスを使用したりする場合、設計者の想定が実現可能であるかを判断するために簡易的な試作を行うものである。筆者はプロジェクターの製品化で新規の冷却用ファンを使用する際、厚紙で製品を部分的に再現し、それに新規のファンを取り付けて温度確認を行っていた。既に技術の確立している派生製品においては行わないことが多い。
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December 09, 2020 at 08:00AM
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