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【西田宗千佳連載】Apple Siliconに存在する「すぐ期待できる」領域と「謎が多い」領域 - GetNavi web

Vol.93-2

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは、アップル・シリコン。WWDCで発表されたMacの自社設計CPUへの移行―その背景には何がある?

アップルは今年の年末以降、Macに使うCPUを、インテル製品から自社開発の通称「Apple Silicon」へと切り替えていく。狙いは、消費電力の低さ(イコール「発熱」の少なさ)と処理性能の高さを両立することだ。

Apple Siliconの正体は、現在iPhoneやiPadに使われているSoCである「Aシリーズ」の延長線上にあるSoCと考えていい。例えば、現在のiPad Proに使われている「A12Z Bionic」は、単純なベンチマークの値だけで比較するならば、すでに13インチ版MacBook Pro(CPUはインテルの第10世代Core iシリーズ)と大差ない性能を備えている。しかも、iPad Proはそれをファンレスで動かしており、より軽量で、バッテリー動作時間も長い。

A12Z Bionicは2018年に登場したアーキテクチャであり、iPhoneには進化した「A13」系が乗っている。おそらくだが、今年の秋に登場する新iPhoneでは「A14」系が生まれる。年末に出るApple Silicon搭載Macでは、A12Z Bionicではなく「A13」系もしくは「A14」系の、より動作の早いSoCが使われる可能性も高い。

Apple Apple Silicon Mac 価格・発売日未定

もちろん、従来のx86用アプリを動作させる場合にはエミュレーションになるため、結果的にパフォーマンスが落ちる可能性はある。とはいえ、ソフトの面は時間が解決してくれる部分があり、アーキテクチャの本質的な課題とは言いづらい。すなわち、一般的なノートパソコンとして評価した場合、Apple Silicon搭載MacBookの性能は、今のインテル搭載MacBookと同等以上である可能性が高いといえる。

ただし、そのへんがクリアになっているのは「比較的処理負荷が低い」領域でのお話だ。PCには色々な用途がある。現状、PCでないとこなせない、高性能なCPUとGPUの演算力にものを言わせた処理が必須となる領域もある。いわゆるゲーミングPCやプロ向けのワークステーションに近い用途がこれに当たる。その場合、CPUはもちろん高性能である必要があるが、同時にGPUにも最新のものが求められる。

Apple Siliconに不安があるとすればこの部分だ。意外かもしれないが、CPU性能はまだいい。ARMコアを増やせば、速度はある程度上げられるので、「x86でない」ことのデメリットは大きくない。

問題はGPUだ。現在、アップルがiPhoneなどに使っているGPUはあくまで「モバイル向け」で、ゲームやワークステーションに使われている、NVIDIAやAMDのハイエンドGPUとは性質が異なる。Apple Siliconでハイエンド用途も満たせることを証明するのは、アップルが作るGPUがトップ2社にパフォーマンスで劣らないことを示す必要がある。もうひとつの方法論として、「ハイエンドではNVIDIAやAMDのGPUを使える」ようにするやり方もあるが、こちらを採用するかどうか、現状では情報がない。少なくとも、WWDCで発表されたアップルの技術説明をみる限り、「自社のGPUでハイエンド需要もカバーできる」と言いたいように、筆者には感じられた。

そもそも、プロ向け用途は色々難しい。周辺機器やソフトの互換性について一般向けよりも厳しい条件が多く、移行には時間がかかるだろう。それを考えた場合、ハイエンドGPUを求められるプロ向け製品、すなわち「Mac Pro」や「16インチ版MacBook Pro」などは、ラインナップのなかでも移行が比較的あとになるのではないか……という予想が成り立つ。といっても、2021年の間には、明確な方針が見えてくるだろう。

では、こうしたアップルの方針にインテルはどう対抗するのだろうか? そのあたりは次回のウェブ版で解説する。

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