アップルの新製品の多くはステージ上でスポットライトを浴びながら発表され、最高幹部によって何百万もの人々に紹介される。ところが、新型「MacBook Pro」の16インチモデルの場合はそうではなかった。最高経営責任者(CEO)のティム・クックが2019年11月、Twitterで発表したのだ。
もちろん、そこでも何百万人もの人々が注目している。だが、新型の16インチ版MacBook Proについてクックが“釈明”するはめになることは避けられた。この製品は最近のアップルのMacBookシリーズの戦略に対する「謝罪」のような位置づけだからだ。
それ以前のMacBookシリーズは、多くの人にとってキーボードが仕事には耐えない代物で、壊れがちだった。そして、ここ数年の一部のMacBookシリーズは、しばしば間に合わせのように旧式のCPUを使っていることもあった。
アップルが「Apple Store」の店頭に主要な新製品をひっそりと並べるときは、プライドの高すぎる友達がけんかしたあとで、メモをドアの下に滑り込ませて謝るようなものだ。しかし、そのメモは心のこもったものなのである。
最高のPC用スピーカー
16インチ版MacBook Proには、4つの興味深いポイントがある。まずはスピーカー、キーボード、大容量のバッテリー。そしてディスプレイについては、デザイン全般への印象に影響を及ぼしている点も含めて注目すべきである。
なかでもスピーカーは、ノートPCという広い世界においても間違いなく最もダイナミックといえるだろう。スピーカーをよく思わせたいメーカーは一般的に、オーディオブランドにいくらか払って名前だけ使わせてもらい、それだけに終わってしまう。
だが、これまでもアップルは長年にわたり、最高のノートPC用スピーカーを提供してきた。そして16インチ版MacBook Proのスピーカーは、これまで発売されたなかでも群を抜いている。ドライヴァーは6つを内蔵しており、そこには不要な振動を打ち消す2基の「フォースキャンセリングウーファー」が含まれる。このウーファーによって、音の歪みが抑えられるのが特徴だ。
こうしたコンセプトは、空気振動を利用してスピーカーユニットを動作させるパッシブラジエーター方式の小型ワイヤレススピーカーで使われており、高い効果を上げている。その効果は、ここでも健在だ。16インチ版MacBook Proは、ノートPC史上で最も豊かなサウンドシステムを備えていると言っていい。
PHOTOGRAPH BY APPLE
音量は非常に大きく、競合製品と比べてずっと優れた中音域の細やかさと存在感があり、空間情報も多い。感心しないほうが難しいほどだ。
アップルは、16インチ版MacBook Proの豊かなサウンドを支えるために、ちょっとした“技”を使っている。スピーカーをトーンジェネレーターにつないでみると、ドライヴァーが実際に出力できる75Hz以上の音を利用して、30〜70Hzの低音を“再現”しているようなのだ。聞こえてくるベース音には、本来より1〜2オクターヴほど高いものがある。
こうした低周波のベース音については、ほかのノートPCや小型のワイヤレススピーカーの大半では省いてしまっている。そもそも存在しないことにしてしまうのだ。
高音域については、頭が特定の位置にあると少し不安定に聞こえることがある。位相にやや問題があるようだ。それでも、これまでで最高のノートPC用スピーカーであり、そのことが最も重要な点である。
キーボードは喜ばしい方針転換
16インチ版MacBook Proでは、キーボードも同じくらい重要な変更点だ。ところが、こちらは「進化」というよりも、むしろ“退化”している。
アップルは2015年以降、新構造によって薄型になったバタフライ式キーボードをMacBookシリーズに導入した。キッチンカウンターで卵の殻を割るときのような打ちごたえと音でキーボードを打つ体験が5年も続いたあとで、今度は古くから使われてきたシザー式キーボードへと回帰したのである。
薄いキーボードの「カチッ」とした感覚は、より打ち応えのある感じになり、キーストロークはバタフライ式の約2倍の1mmになった。それでも、かなり薄いキーボードであることに変わりない。
エイサーやASUSの多くのノートPCのキーストロークは約1.4mmで、よりがっしりとして感じられる。バタフライ式より前のMacBook Pro(2013年モデル)のキーボードも、ずっと深さがあった。いずれにしても、キーボード(そして価格)以外にMacBookシリーズのすべてを愛していた人たちにとって、これは本当に喜ばしい方針転換だろう。
そのほかの入力まわりは、いつも通りに素晴らしい。16インチ版MacBook Proのキーボードは、ノートPCにおいてベストといえる白色LEDのバックライトを内蔵している。トラックパッドは広大でアップル独自の触覚フィードバック技術が採用され、キーボードとは違ってほかのどの製品よりも優れていると言っていい。
タッチバーには大きな変更点はないが、採用初期よりは改善されている。ASUSがトラックパッドにディスプレイを搭載して似たようなことを試みていたが、それよりはいい。アップルはハードウェアとOSを統合して幅広い実用性を実現しているので、なおさらである。
タッチバーに現れるショートカットは、ほぼすべてのアプリケーションごとに変化する。ファンクションキーに変更すもできる。「ESC」キーが物理キーになったことは、うれしい復活と言えるだろう。
素晴らしい色表現
ディスプレイも変更されたが、特に劇的な変化ではない。その名称ゆえに16インチ版MacBook Proは、旧モデルより1インチ大きい画面を搭載したと思ってしまうだろうが、実際は0.4インチ大きいだけだ。一般的に「15インチ」とされるノートPCには、15.6インチのディスプレイが搭載されていることを思い出してほしい。
だからといって、ケチを付けているわけではない。スタイリッシュで比較的持ち運びやすい大型ディスプレイのノートPCは、いまやかなり稀少となっている。16インチ版MacBook Proは、そのリストのトップへとたちまち躍り出たと言える。
ディスプレイの解像度は3,072×1,920ピクセルで、16.0インチのIPS液晶パネルを採用している。4K解像度というわけではないが、表示は鮮明である。
アップルが16インチ版MacBook Proのディスプレイにおいて訴求しているポイントは、デジタルシネマの色域を定めた映画業界の規格「DCI-P3」の100パーセントをカヴァーしている点だ。そこで『WIRED』UK版では、実際に色彩計で計測してみた。
色彩計の計測結果によると、16インチ版MacBook ProのディスプレイはDCI-P3よりさらに深いグリーンを表示できるが、レッド、マゼンタ、ブルーの最も深い部分をわずかに逃している。しかし、これはわずかな色域の違いだ。このディスプレイで表示される色は液晶としては素晴らしく、キャリブレーションも見事なものである。
さらに、このサイズのディスプレイとしては非常に明るい500ニトを謳っている。一般的には非常に明るい環境光なしでは、このレヴェルの輝度に近付くことはできない。そこでLEDライトを使うことで、482ニトまで到達させることができた。いい線をいっており、確かに非常に明るい。
それ以外は、ほとんど変わっていない。16インチ版MacBook Proにはタッチスクリーンは相変わらずなく、140度までしか開かない。その意味ではかなり平凡と言えるが、普通に使用するには十分だろう。
性能を考えると優れたバッテリー
ここ数年のアップルはノートPCの設計に関して多くの批判を受けてきた。しかし、よくも悪くも現実的な用途に向けて設計しようとしているという確かな言い分がある。
16インチ版MacBook Proのバッテリーは、この言い分が実行に移された格好の例のひとつだろう。バッテリー容量は旧モデルの15インチ版の83Wと比べて、かなり大容量の100Whになっている。
このバッテリーは11時間もつとアップルは説明しているが、プロセッサーとして「Core i9」を搭載したノートPCとしては素晴らしい。このCPUを搭載したWindowsノートPCで直近にテストしたモデルでは、3.5時間が限界だった。
実際に就業時間の半分で軽く使うような利用シーンで数日ほど試してみると、1回の充電で11〜12時間利用できることがわかった。条件によっては、アップルの謳い文句を超える数値が記録できることも珍しくはない。
次にYouTubeを5時間ほど再生してみた。水族館の生き物のHD動画で、16インチのディスプレイを海の生き物たちがゆっくりと泳ぐ。うっとりするような時間だ。この動画を5時間再生すると、バッテリーは46パーセント減った。つまりフル充電なら10時間52分は持続するということだ。水族館をたっぷり楽しめる。
16インチ版MacBook Proのバッテリーのもちは、明らかに素晴らしい。そのCPUが超低電力消費ではなくパフォーマンスのためにつくられていることを考慮すれば、さらに感動的といえる。
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高性能だがゲーマー向けではない
そのほかの点において、16インチ版MacBook Proには特に興味深い点はない。アップルによると、スクリーンのベゼル(縁)が薄くなったことで、本体をあまり大きくせずに画面サイズを大きくできたくらいだ。
とはいえ、旧モデルの15インチ版より面積は大きくなっており、WindowsノートPCの一部より縁の部分が大きい。そして繰り返しになるが、画面サイズは1インチまるまるではなく、0.4インチだけ大きくなっていることを忘れてはならない。
選べるプロセッサーの種類は、第9世代のインテル「Core i7」とCore i9へと格上げされている。だが、それより性能の低いCPUをアップルが提供するくらいなら、さっさとノートPCから撤退したほうがいいだろう。i7もi9も、どちらも非常にパワフルだ。
これまで通りに歴史的、政治的、そして実際的なさまざまな理由から、16インチ版MacBook ProのGPUには人気のあるNVIDIAの「GeForce RTX」ではなく、AMDの「Radeon」が採用されている。「AMD Radeon Pro 5500M」を搭載したモデルなら、「エイリアン アイソレーション」や中レヴェルのグラフィック設定の「Subnautica」など、かなり先進的なゲームをプレイできる[編註:現在はさらに高性能な「Radeon 5600M」も選べる]。
だが、熱心なゲーマーなら16インチ版MacBook Proを選ばないほうがいいだろう。この価格でWindowsノートPCを探せば、よりパワフルなGeForce RTX 2060/2070/2080を搭載した製品を買うことができる。それにmacOS用には、Windowsと比べてほんのわずかしかゲームがリリースされていない。
最高のノートPC
本体の発熱については、ゲームのプレイ中などにはキーボードの上半分が熱くなる。この点を除けば、温度の管理は素晴らしいと言っていい。負荷の少ない作業の最中は静かで、高負荷のあとに熱を拡散するスピードも見事だ。16インチ版MacBook Proを購入してファンがうるさいと感じるとしたら、おそらくOSのアップデートのときくらいだろう。
入出力に関して言えば、16インチ版MacBook Proは現時点で最速の「Thunderbolt 3」」端子が4つある。一方で、メモリーカードや従来型USB接続の周辺機器をつなぐアダプターが必要な場合は、それらをいつも持ち歩かなければならない。ちなみに、ありがたいことに3.5mmのヘッドフォンジャックは健在だ。
アップルは16インチ版MacBook Proにおいて、いくつかの興味深い前進(と後退)をなし遂げた。快適な昔ながらのシザー式キーボードへの回帰は使用感を改善し、信頼性の向上にもつながるだろう。「ThinkPad X1 Carbon」のファンを感激させることはないだろうが、キーの反応はよくなっている。
バッテリーの持続時間とスピーカーのクオリティは申し分ない。そこにインテルのCore i7とi9の性能が加われば、サイズこそ大きいとはいえ、クリエイティヴな人たちにとって最高の持ち運べるPCになる。だがこれまでと同じように、お金がないアーティストにしてみれば手が届かない存在ではある。
◎「WIRED」な点
スピーカーの音質は、現時点でWindowsノートPCが到達できない新たな基準を打ち立てている。より深くしっかりしたキーボード。大型で色調豊かで、よくキャリブレーションされたディスプレイ。
△「TIRED」な点
もっとキーストロークが深いほうがいい人もいるだろう。価格の高さはネック。
※『WIRED』によるアップルの関連記事はこちら。ガジェットのレヴュー記事はこちら。
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