AMDのミドルレンジGPU「Radeon RX 5600 XT」を搭載したビデオカードの多くに、メモリスピードを12Gbpsから14Gbpsに引き上げるビデオBIOS(VBIOS)がリリースされている。これにより、メモリ帯域幅が約17%向上することになるため、ゲームにおける性能向上が期待できるVBIOSアップデートだ。
今回、ASRockより借用した「Radeon RX 5600 XT Challenger D 6G OC」を使って、この新VBIOSの効果を確認してみた。
Navi世代のミドルレンジGPU「Radeon RX 5600 XT」
今年1月に登場したRadeon RX 5600 XTは、RDNAアーキテクチャに基づいて7nmプロセスで製造されたGPUコア「Navi10」ベースのミドルレンジGPU。AMDはRadeon RX 5600 XTを「究極の1080pゲーミング用GPU」と位置付けており、同GPUを搭載するビデオカードは3.5~4万円で販売されている。
発売当初、Radeon RX 5600 XTのメモリスピードは12Gbpsとされており、192bitのメモリインターフェイスを備えるGPUとの帯域幅は288GB/sだった。このメモリスピードを14Gbpsに引き上げ、帯域幅を336GB/sに向上させるのが、各ビデオカードベンダーからリリースされている新VBIOSだ。
この新VBIOSの公開に伴い、AMD公式のスペック表に12Gbpsと14Gbpsのメモリスピードが併記された。公式の仕様では、GPUの動作クロックや電力指標(Typical Board Power)に変更はないが、これらはビデオカードベンダーの裁量でチューニングされるため、新VBIOSの適用で変化するか否かは製品次第である。
GPU | Radeon RX 5600 XT (12Gbps) | Radeon RX 5600 XT (14Gbps) | Radeon RX 5700 |
---|---|---|---|
アーキテクチャ | Navi (RDNA) | Navi (RDNA) | Navi (RDNA) |
製造プロセス | 7nm | 7nm | 7nm |
コンピュートユニット | 36基 | 36基 | 36基 |
ストリーミングプロセッサー | 2,304基 | 2,304基 | 2,304基 |
テクスチャーユニット | 144基 | 144基 | 144基 |
ROPユニット | 64基 | 64基 | 64基 |
ベースクロック | ─ | ─ | 1,465MHz |
ゲームクロック | 1,375MHz | 1,375MHz | 1,625MHz |
ブーストクロック | 1,560MHz | 1,560MHz | 1,725MHz |
メモリ容量 | 6GB (GDDR6) | 6GB (GDDR6) | 8GB (GDDR6) |
メモリスピード | 12.0Gbps | 14.0Gbps | 14.0Gbps |
メモリインターフェイス | 192bit | 192bit | 256bit |
メモリ帯域幅 | 288GB/s | 336GB/s | 448GB/s |
PCI Express | PCIe 4.0 x16 | PCIe 4.0 x16 | PCIe 4.0 x16 |
消費電力 (TBP) | 150W | 150W | 225W |
テスト機材
今回は、Radeon RX 5600 XT Challenger D 6G OCに新VBIOSを適用する前後でベンチマークテストを行ない、メモリスピードの変化に伴う性能変化を確認する。また、比較用として上位GPUであるRadeon RX 5700を搭載した「Radeon RX 5700 Challenger D 8G OC (RX5700 CLD 8GO)」のスコアも測定した。
各ビデオカードのテストには、ASRockのSocket AM4対応マザーボード「X570 Taichi」にRyzen 9 3950Xを搭載したAMD X570環境を利用。各ビデオカードのテスト時動作仕様や、そのほかの機材については以下のとおり。
GPU | Radeon RX 5600 XT (12Gbps) | Radeon RX 5600 XT (14Gbps) | Radeon RX 5700 |
---|---|---|---|
ビデオカードベンダー | ASRock | ASRock | |
製品型番 | RX5600XT CLD 6GO | RX5700 CLD 8GO | |
VBIOS | L07 | L08 | L04 |
ベースクロック | 1,420MHz | 1,420MHz | 1,515MHz |
ゲームクロック | 1,615MHz | 1,615MHz | 1,675MHz |
ブーストクロック | 1,750MHz | 1,750MHz | 1,750MHz |
メモリ容量 | 6GB (GDDR6) | 6GB (GDDR6) | 8GB (GDDR6) |
メモリスピード | 12.0Gbps | 14.0Gbps | 14.0Gbps |
メモリインターフェイス | 192bit | 192bit | 256bit |
メモリ帯域幅 | 288GB/s | 336GB/s | 448GB/s |
【表3】テスト機材一覧 | |
---|---|
CPU | Ryzen 9 3950X |
CPUパワーリミット | PPT:142W、TDC:95A、EDC:140A |
CPUクーラー | サイズ APSALUS G6 (ファンスピード=100%) |
マザーボード | ASRock X570 Taichi [UEFI:3.00] |
メモリ | DDR4-3200 16GB×2 (2ch、22-22-22-53、1.20V) |
システム用SSD | CORSAIR MP600 1TB (NVMe SSD/PCIe 4.0 x4) |
アプリケーション用SSD | CORSAIR MP600 1TB (NVMe SSD/PCIe 4.0 x4) |
電源 | CORSAIR RM850 CP-9020196-JP (850W/80PLUS Gold) |
グラフィックスドライバ | Radeon Software Adrenalin 2020 Edition 20.4.2 (26.20.15029.27016) |
OS | Windows 10 Pro 64bit (Ver 1909 / build 18363.836) |
電源プラン | AMD Ryzen Balanced |
室温 | 約25℃ |
ベンチマーク結果
それでは、ベンチマークテストの結果をみていこう。
今回実施したベンチマークテストは、「3DMark(グラフ01~07)」、「VRMark(グラフ08~09)」、「ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク(グラフ10)」、「FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク(グラフ11)」、「Forza Horizon 4(グラフ12)」、「F1 2019(グラフ13)」、「フォートナイト(グラフ14)」、「レインボーシックス シージ(グラフ15)」、「オーバーウォッチ(グラフ16)」、「モンスターハンターワールド : アイスボーン(グラフ17)」、「アサシン クリード オデッセイ(グラフ18)」、「ゴーストリコン ブレイクポイント(グラフ19)」、「レッド・デッド・リデンプション 2(グラフ20)」。
3DMark
3DMarkでは、「Time Spy」、「Fire Strike」、「Night Raid」、「Sky Diver」の5テストを実行した。
高負荷テストであるTime SpyとFire Strikeでは、14Gbps動作が12Gbps動作を約4~6%ほど上回った。12Gbps動作では12~19%あったRadeon RX 5700との差は、14Gbps動作によって7~14%に縮んでいる。
低負荷テストのNight RaidとSky Diverでは、12Gbps動作と14Gbps動作の総合スコア差は約2%と小さいが、GPU性能を反映するGraphics Scoreでは4~6%という、高負荷テストの結果に近い差がついている。
VRMark
VRMarkでは、「Orange Room」、「Cyan Room」、「Blue Room」の3テストを実行した。
14Gbps動作のRadeon RX 5600 XTは、12Gbps動作より4~5%高いスコアとフレームレートを記録した。上位GPUであるRadeon RX 5700との差は、12Gbps動作が11~14%で、14Gbps動作は6~9%。
ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク
ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマークでは、描画品質を「最高品質」に設定し、フルHDから4Kまでの画面解像度でテストを実行した。
Radeon RX 5600 XTの14Gbps動作と12Gbps動作のスコア差は3~8%で、画面解像度が高くなるにつれてスコア差が開いている。
上位GPUであるRadeon RX 5700との差は、12Gbps動作が8~21%で、14Gbps動作は5~13%。こちらも画面解像度が高くなるほど差が拡大しており、高解像度になるほどメモリ帯域幅の差がスコアに反映される傾向がみてとれる。
FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク
FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマークでは、描画品質を「高品質」に設定し、フルHDから4Kまでの画面解像度でテストを実行した。
Radeon RX 5600 XTの14Gbps動作と12Gbps動作の差は5~7%。Radeon RX 5700との差は、12Gbps動作が14~16%で、14Gbps動作は7~10%だった。このテストでは、「ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク」で顕著だった、画面解像度の向上に伴ってスコア差が拡大するという傾向は確認できない。
Forza Horizon 4
DirectX 12専用のオープンワールドレーシング「Forza Horizon 4」ではベンチマークモードを利用して、描画設定「ウルトラ」でフルHDから4Kまでの画面解像度をテストした。
14Gbps動作と12Gbps動作の差は5~8%。上位GPUであるRadeon RX 5700との差は、12Gbps動作が8~16%で、14Gbps動作は3~7%だった。このテストでは画面解像度が上がるほど、フレームレートの差が拡大している。
F1 2019
F1 2019ではベンチマークモードを利用して、描画設定「超高」でフルHDから4Kまでの画面解像度をテストした。この際、グラフィックスAPIはDirectX 12を利用している。
Radeon RX 5600 XTの14Gbps動作と12Gbps動作の差は2~4%。Radeon RX 5700との差は、12Gbps動作が9~12%で、14Gbps動作は7~8%だった。
フォートナイト
バトルロイヤルTPSの「フォートナイト」では、描画設定「最高」でフルHDから4Kまでの画面解像度をテストした。なお、グラフィックスAPIはDirectX 11を利用し、3D解像度はつねに100%に設定している。
Radeon RX 5600 XTの14Gbps動作と12Gbps動作の差は約7%。Radeon RX 5700との差は、12Gbps動作が14~26%で、14Gbps動作は7~17%だった。
Radeon RX 5600 XTとRadeon RX 5700の差は4K解像度で顕著に増大しており、メモリ帯域だけでなくメモリ容量の差が効いている印象だ。ただ、4K解像度ではRadeon RX 5700も60fpsを下回っており、フォートナイトを快適にプレイできる描画設定でついた差ではない。
レインボーシックス シージ
レインボーシックス シージではベンチマークモードを使って、描画設定「最高」でフルHDから4Kまでの画面解像度をテストした。レンダリングのスケールは全ての条件で100%に設定している。
Radeon RX 5600 XTの14Gbps動作と12Gbps動作の差は約3~5%。Radeon RX 5700との差は、12Gbps動作が9~12%で、14Gbps動作は4~7%だった。
オーバーウォッチ
オーバーウォッチでは、描画設定「最高」でフルHDから4Kまでの画面解像度をテストした。レンダー・スケールは全ての条件で100%に設定している。
Radeon RX 5600 XTの14Gbps動作と12Gbps動作の差は4~5%。Radeon RX 5700との差は、12Gbps動作が12~13%で、14Gbps動作は7~8%だった。
モンスターハンターワールド : アイスボーン
モンスターハンターワールド : アイスボーンでは、画面解像度をフルHDに固定して、3通りのグラフィック設定でフレームレートを測定した。グラフィックスAPIはDirectX 12を利用している。
Radeon RX 5600 XTの14Gbps動作と12Gbps動作の差は5~9%。Radeon RX 5700との差は、12Gbps動作が13~19%で、14Gbps動作は7~8%だった。
アサシン クリード オデッセイ
アサシン クリード オデッセイでは、画面解像度をフルHDに固定して、3通りのグラフィック設定でベンチマークモードを実行した。
Radeon RX 5600 XTの14Gbps動作と12Gbps動作の差は2~7%。Radeon RX 5700との差は、12Gbps動作が5~11%で、14Gbps動作は2~4%だった。
ゴーストリコン ブレイクポイント
ゴーストリコン ブレイクポイントでは、画面解像度をフルHDに固定して、3通りのグラフィック設定でベンチマークモードを実行した。
Radeon RX 5600 XTの14Gbps動作と12Gbps動作の差は、「非常に高い」以下の描画設定では約3%で、「最高」では77fpsで横並びだった。描画設定「最高」で差がつかなったのは、VRAM使用量がRadeon RX 5600 XTが搭載する6GBを超過していることが影響しているものと思われる。
描画設定「非常に高い」以下におけるRadeon RX 5700との差は、12Gbps動作が約8%で、14Gbps動作は4~5%。描画設定「最高」ではどちらも約10%差となっている。
消費電力とモニタリングデータ
システム全体の消費電力をワットチェッカーで測定した結果を紹介する。ベンチマーク中のピーク消費電力とアイドル時消費電力を測定してグラフ化した。
Radeon RX 5600 XTのアイドル時消費電力は、12Gbps動作が58Wであったのに対し、14Gbps動作では5W高い63Wを記録。これはRadeon RX 5700が記録した60Wよりも高い数値だ。
ベンチマーク中のピーク消費電力については、12Gbps動作が260~309Wを記録したのに対し、14Gbps動作は279~325Wを記録しており、各テストでの消費電力は12~21W増加している。フレームレートが向上すればCPUの消費電力も増加するため、この差の全てがビデオカードの消費電力増加というわけではないが、CPUの影響が少ないVRMarkのBlue Roomでも差がついているあたり、ビデオカードの消費電力が増加していることは疑いない。
もっとも、14Gbps動作の増加した消費電力であっても、上位GPUであるRadeon RX 5700との比較では2~17W低く、12Gbps動作からの増加幅も電源ユニットの交換が必要になるほどではない。
続いて、ベンチマークテスト実行中に取得したモニタリングデータの結果を紹介する。
負荷テストに用いたのはFINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマークで、4K解像度かつ「高品質」設定でテストを実行。テスト時の室温は約25℃で、モニタリングデータの取得は「GPU-Z v2.31.0」で行なった。
モニタリングデータを比較すると、まずはメモリクロックの違いが目につく。12Gbps動作では1,500MHzだったメモリクロックは、14Gbps動作では1,750MHzに上昇している。GDDR6メモリのメモリクロックはデータ転送レートの8分の1なので、これは動作仕様とおりの結果だ。
そのほかの項目では、GPUクロックは14Gbps動作の方が高クロックで安定している。GPU使用率70%以上を記録した時の平均GPUクロックは、12Gbps動作の約1,668MHzに対して、14Gbps動作は3%高い約1,719MHzを記録している。同条件の平均消費電力も約131Wから約145Wに増加しており、VBIOSの更新でGPUコアの挙動も多少変更されていることが伺える。
上位モデルとの性能差を縮める新VBIOS、ゲーマーなら更新を推奨
新VBIOSの導入によってメモリスピードを14Gbpsに引き上げたRadeon RX 5600 XTは、従来の12Gbps動作から5%前後の性能向上を実現し、上位モデルであるRadeon RX 5700との性能差を1割弱に縮めている。
今回のテストに用いたRadeon RX 5600 XT Challenger D 6G OCの価格は税込36,000円前後で、上位モデルのRadeon RX 5700 Challenger D 8G OCは税込43,000円前後。両モデルの間にはVRAM容量の差も存在するが、2割近い価格差はそれを考慮した上でもRadeon RX 5600 XTを選択する理由となり得るだろう。
無料で性能向上を実現するRadeon RX 5600 XTの新VBIOSは、ゲーミング性能を求めるゲーマーにとって間違いなく有益なアップデートだ。14Gbps動作対応版VBIOSが提供されているビデオカードについては、AMDのWebサイトに一覧が公開されているので、Radeon RX 5600 XTを所有している、あるいは購入を検討中であるならば、チェックしてみると良いだろう。
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May 28, 2020 at 09:00AM
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