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<書評>『雑草ラジオ』瀬戸義章 著:東京新聞 TOKYO Web - 東京新聞

◆災害放送局誕生の記録
[評]石井彰(放送作家)

 一九二五年三月二十二日、日本でラジオ放送が始まって、まもなく百年。同じ一九二五年にラジオ放送が始まったのが、当時オランダの植民地だったインドネシア。ともに島国で、地震や津波、火山噴火など自然災害の多い国だ。

 太平洋上に浮かぶ二つの国をつないで活躍しているのが、かばんやスーツケースに入る「バックパックラジオ」だ。簡単にいえば「持ち運べる災害ラジオ局」。スマホアプリと小型FM送信機、アンテナを組み合わせた、簡便で安価な物。本書は著者らのアイデアによって生まれ、インドネシアの火山地帯に配備されるまでになった「バックパックラジオ」誕生の記録だ。

 話はインドネシアの火山から始まる。度重なる火山の噴火とともに暮らす現地の人々に、いちはやく噴火の危険を知らせる道具として、二〇〇二年に小さな村にラジオ局が生まれた。やがてラジオは災害情報や音楽だけでなく、住民同士の対話の場となり、自治の手段に成長していった。

 日本では一九九五年の阪神・淡路大震災以後、多くコミュニティFMが誕生する。その先駆けとなったのが神戸市長田区に生まれたミニFM局を母体に生まれた「FMわぃわぃ」だ。やがてインドネシアと日本の動きがつながり、「持ち運べる災害ラジオ局」が生まれ、いまや世界に広がろうとしている。

 未知への挑戦に失敗はつきものだ。でも著者は、たまたま思いついたアイデア「バックパックラジオ」への気負いがないからか、失敗も軽やかに綴(つづ)られる。本書の題名がまたいい。雑草のようにたくましく、どこにでも飛んで、その土地で根づき広がっていく。

 大きなテレビ・ラジオ局の放送をブロードキャストと呼ぶが、著者は対象や地域を限定した放送「ナローキャスト」を提唱する。狭い、小さいから、できることがある。

 インドネシアのラジオ局で必ず語られる言葉があるという。「忘れっぽい人より、用心深い人のほうが幸せ」。災害への備えだけでなく、百年目のラジオへのヒントもぎっしり詰まっている。

(英治出版・1980円)

1983年生まれ。作家・ライター。『「ゴミ」を知れば経済がわかる』など。

◆もう1冊

『わたしは「ひとり新聞社」岩手県大槌町で生き、考え、伝える』菊池由貴子著(亜紀書房)

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