昨年開催した日経SDGsフェスティバル(12月5日〜10日)期間中に、イベントの1つとして、「革新的エネルギー技術・システムが切り拓く脱炭素社会」をテーマとした「日経 社会イノベーションフォーラム」を開催した。フォーラムには産官学の第一線で活躍する有識者たちが集い、多様な角度から日本のエネルギー課題の現在と未来について議論した。具体的な取り組み事例が豊富に紹介されたフォーラムの模様を報告する。
このうち、12月6日に開催したトラック「日経 社会イノベーションフォーラム」のプログラムから企業講演をダイジェスト版でご紹介します。
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【企業講演】石炭ガス化の実証進む
J-POWER(電源開発) 取締役常務執行役員 笹津 浩司 氏
J-POWERは2021年2月にJ-POWER〝BLUE MISSION2050〞を公表。水力、地熱、風力などの再生可能エネルギーの拡大を、二酸化炭素(CO2)フリー水素エネルギーの供給と電力ネットワークの増強支援によって加速する。
CO2フリー水素はエネルギー自給率の低い日本にとって、エネルギーの安定供給、安全保障を考えると重要な資源。その製造方法の確立はとても重要だ。そこで当社の総合技術力をフル活用し、製造・供給・発電利用の早期実現を目指す。
具体的には石炭をガス化して、水素を含んだガス、合成液体燃料、電気として利用する技術の開発・実証を広島県大崎上島で進めている。長崎県西海市の松島火力発電所では、40年以上運転してきた既設設備にガス化設備を追設するアップサイクルを通じて、将来的なCO2フリー水素発電を目指す。今後はバイオマス・アンモニア混焼によるCO2排出削減やCCUS(CO2の回収・再利用・貯留)などにも挑戦する計画だ。また、長年培ってきた再エネ知見を生かし、電解技術と組み合わせた再エネ由来のグリーン水素製造も可能だ。
石炭ガス化によるCO2フリー水素製造の商用化も進める。地球上に広く分布する石炭は、調達リスクが低く、貯蔵性に優れている。親和性の高いバイオマスを活用することで、ネガティブエミッションにつなげていく。
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【企業講演】ガス火力でネットゼロ貢献
GEガスパワー 脱炭素化アジア地域リーダー 福井 一成 氏
いま世界は増え続ける電力需要に対応しながらCO2排出量を削減しなければならないというチャレンジングな課題を抱えている。依然としてガス火力や石炭火力に発電を頼る状況において、ガス火力の脱炭素化が不可欠となっている。
そこでGEはエネルギーの未来を考え、ガス火力の脱炭素化に取り組んでいる。まず第1に「石炭火力から天然ガス火力への転換」。この転換だけで石炭火力に比べて50%以上の排出量削減が可能だ。第2が「再生エネとガス火力の並行活用」。ガス火力の柔軟性と信頼性を活用して再エネ増加に貢献する。第3が「原子力発電の活用」。そして第4が「スマートグリッドの活用」である。
例えばガス火力の脱炭素化では、燃焼前あるいは燃焼後で脱炭素化を行う仕組みの開発を進めている。燃焼前は、水素など炭素を含んでいない燃料による発電システムの開発だ。水素発電で蓄積した30年以上の経験とノウハウを生かし、22年に5%の水素混焼の実証に成功。30年には水素100%専焼を目指している。燃焼後のCCUS(CO2の回収・再利用・貯留)を活用した取り組みでは、排ガス再利用するシステムを開発。タービンの効率運用や蒸気コントロールなどにより、さらなる最適化を図っている。
また日本での成長戦略としてIHIと提携を結び、ガスタービンでのアンモニア燃焼に取り組んでいる。
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【企業講演】リスク低い水素輸送システム
千代田化工建設 理事 フロンティアビジネス本部 副本部長 森本 孝和 氏
複数ある水素を長距離で輸送する技術は、その利点や向き不向き、商用技術確立時期の差で使い分けられると考えている。それら技術の1つに、トルエンに水素を化合させて、MCH(メチルシクロヘキサン)という液体にし、常温常圧で水素を運ぶ「LOHC-MCH法」がある。シンプルな化学反応がベースであるとともに、トルエンもMCHもすでに流通しており、安全上のリスクも低い。また、その利用には、現在の石油などの規格や設計基準が適用でき、既存設備も利用できることから、初期投資の抑制や導入時間が短縮できるメリットがある。また、輸送や貯蔵も特別な扱いが不要で、長期備蓄も可能だ。これまでは、MCHから水素を取り出す触媒の寿命が短いことが課題であった。千代田化工建設は2011年に、長期間安定して利用できる触媒の開発に成功し、ラテン語で希望を意味する「SPERA水素」と命名し、実用化に向け実証を重ねてきた。
LOHC-MCH法は、コンビナートでの「集中型水素供給利用」、「分散型利用」、「大規模エネルギー貯蔵」等への利用が期待できる。商用化に必要な主な技術は既に確立しており、国際実証完了後、現在は商用化に向けたプロジェクトを進めている。海外からCO2フリー水素を容易にかつ安価に輸入することができる技術の普及で、水素社会の早期確立に貢献できると考えている。
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【企業講演】安定供給へ基盤整備
ENEOS 代表取締役 副社長執行役員 宮田 知秀 氏
ENEOSは石油・石化事業を通じて得た知見・ノウハウを生かし、カーボンニュートラルに適合したCO2フリー水素サプライチェーン構築に取り組んでいる。国内の再エネから製造した水素、海外から運搬する安価なCO2フリー水素の両方を活用し、製油所などの既存設備を使って供給能力を段階的に拡大して、2030年以降の本格的な商用化を目指す。
調達する水素は、現状ブルー水素が安価だが、再エネ電力の低コスト化や製造技術革新に伴い、グリーン水素がコスト優位になると想定。その確保に向け、豪州、東南アジア、中東の現地企業との協業を検討中だ。
また製油所などの自社アセットを最大限活用し、海外からの水素の受け入れ、供給拠点として整備する。多様な産業が集積する製油所を水素供給拠点にすることで、地域に適したカーボンニュートラルコンビナートを形成できる。川崎市、横浜市と連携協定を締結し、 京浜臨海部で水素パイプライン網整備の可能性など、調査・実証を進める。国産グリーン水素を活用した地産地消事業モデルは再エネ資源の豊富な地域(北海道、東北など)中心に検討中だ。
水素ステーション(ST)は、4大都市圏で47カ所を運営。大型商用燃料電池車向けの新規需要開拓に注力し、トラック・バス対応の大型ST新設などの整備を進める。また、鉄道など多様なモビリティーへの供給モデル構築にも取り組む。
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【企業講演】30年商用化に向け実証
川崎重工業 執行役員 水素戦略本部 副本部長/技術研究組合CO2フリー水素 サプライチェーン推進機構 事務局長 西村 元彦 氏
液化水素の導入で、より現実的な経済負担でのカーボンニュートラルが可能だ。また水素サプライチェーンとその需要先には幅広い産業とプレーヤーが関与するため、経済と環境の好循環をもたらすと、世界から注目が集まっている。そんな中、川崎重工業は水素サプライチェーンに必要なあらゆる技術を持ち、それを生かしたコングロマリットプレミアムの実現に向け、様々なプロジェクトに取り組んでいる。
水素の活用は日本がフロントランナーとして多くの知財を保持しており、海上輸送サプライチェーンを世界に先駆けて構築した。いま2030年の商用化に向け、実証事業が行われ、当社も参加している。例えば、日豪パイロットプロジェクトでは、豪州ラトローブ地区で採掘した褐炭をガス化し、それを液化。当社が開発した世界初の液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」に積んで、神戸にある水素荷役基地まで運んだ。運搬した水素は、世界で2番目に大きな液化水素タンクに荷揚げした。さらに神戸では、水素を燃料とする1㍋㍗級のガスタービン発電設備を用いて、地域のエネルギー源として、コージェネレーションの実証にも取り組んでいる。
水素を社会実装する上での課題は、コストの低減。パイロットで技術、安全、運用上の成立性を実証できたものを、今後大型化するなどして商用実証していく。
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【企業講演】液化水素特化の技術開発に注力
岩谷産業 執行役員 中央研究所長/岩谷水素技術研究所長 工学博士 小池 国彦 氏
岩谷産業は日本で初めて水素を販売し、液化水素製造プラントをつくり、商用の水素ステーションを建設するなど、水素のパイオニアである。既に水素は様々な分野で商業利用が始まっているが、今後脱炭素社会の実現に向け、水素が本格活用されるように、安価で安定的に大量の水素を調達できるグローバルな水素サプライチェーンの構築に力を入れている。
水素を活用したエネルギーキャリアは有機ハイドライトやアンモニアなどがあるが、50年近くの製造・供給実績がある液化水素にこだわりを持つ。液化水素の特徴は「極低温」「超高純度」「大量輸送・大量貯蔵が可能」の3つ。これらの特徴を生かすと同時に課題を解決するため、技術開発に取り組んできた。2021年に岩谷水素技術研究所を設立し、国内では他に類のない、高圧ガス保安法に準拠した自由度の高いユニークな試験研究環境を整えた。
水素ステーションは22年11月現在国内で53カ所、米カリフォルニアで5カ所を運営中だ。ステーション建設に関わる検査技術として、水素計量技術および品質分析技術の開発に注力している。また水素適合性材料・機器の評価、選定、開発、さらに液化水素の充填技術や流量計測技術、冷熱回収技術などの開発も行っている。技術開発と同時に、法規制緩和などに向けた仲間づくり、国民一人ひとりの意識改革にも取り組んでいる。
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