酪農乳業界の2020年度は、生乳生産量が2年連続で増加という明るい話題がある一方、新型コロナウイルス禍による生活様式の変化が、牛乳・乳製品の消費に大きな影響を与えている。家庭用需要はさまざまな段階を経て好調が続くが、業務用需要は停滞。ここにきて回復の兆しが見えてきてはいるものの、「新しい生活様式」に突入したことで、牛乳・乳製品に対する需要は生活・健康の防衛意識(プロテクション)から、新たな状況下での楽しみ(レクリエーション)も両立することが期待されていると言ってよい。
健康増進のニーズ高まる
感染予防の健康意識は依然として期待されているが、ここにきて低カロリーや美容といった、心も含めたヘルシーに対するニーズが高まっていることから、牛乳・乳製品への需要は今後も引き続き高い水準で推移することが予想される。消費喚起策も新たなステージを迎え、今後もミルクサプライチェーンが一丸となった取組みが重要となってくる。 新型コロナウイルス感染症の拡大は、酪農・乳業業界に大きな影響を及ぼした。政府は2月末、感染拡大を未然に防止することを目的に、全国の小中学校、高校、特別支援学校に臨時休校を要請。4月には全国に緊急事態宣言を発令し、6月に入り各学校が再開するまで学校給食用牛乳(学乳)がストップした。業務用チャネルも打撃を受け、商業施設や外食店舗の休業で需要が大幅に減退。 一方で、緊急事態宣言期間中の「巣ごもり消費」では、牛乳・乳製品の家庭内消費が爆発的な伸びを見せ、バターなどは最重要期を大きく上回る需要で一時棚から姿を消すほどだった。宣言解除後は、家庭用では引き続き堅調な推移が続いており、停滞していた業務用需要も徐々に回復に向かっているようだが、ここにきて感染の終息はいまだ先が見えない状態が続いている。
生乳増産も緩和とひっ迫対応が鍵
Jミルクが7月31日に公表した2020年度の生乳生産量と牛乳・乳製品需給見通しでは、全国の生乳生産量は前年比0.9%増の742万5000トンで、2年連続での増産が予想されている。北海道は同1.9%増の417万1000トンで前年を上回り、都府県は同0.5%減の325万5000トン。前回の見通し(5月)と比較すると、北海道の伸び率は縮小したものの、都府県の減少率が圧縮する見込みだ。 今後も新型コロナ禍の影響で需給の変動が大きくなる可能性があるため、牛乳・乳製品の生産量は第3四半期(4~12月)までの予測となるが、牛乳類は前年比微増の362万キロリットル。4~5月は学乳が停止したため、例年の約5分の1の供給となったが、6月からの再開で増加した。 しかし、今年は夏休み期間の短縮により、7月は前年同月比44.2%増の3万5000キロリットル、8月は同165.5%増の1万6000キロリットルと予想され、例年より多い生産量が必要になると見込まれている。業界としては、学乳供給を優先にしつつ、廉売の自粛や加工乳などの代替品販売について、流通小売業界の理解を得る必要がある。業務用は第3四半期までで前年比10.4%減の22万キロリットルとなる見通しだが、年末に向けて緩やかな回復がみられそうだ。 発酵乳は4~5月に個食、ドリンクなど各タイプの需要が拡大。自己防衛意識や健康増進目的での購買が進んだ。直近は落ち着きをみせてきたが、大容量プレーンなどホームサイズ商品は引き続き堅調に伸びを見せ、12月までで同3.4%増の79万6000キロリットルを見込む。 乳製品の需給では、インバウンド需要の喪失や緊急事態宣言期間での飲食店の営業自粛などで、業務用需要が低迷。業務用バターや脱脂粉乳の在庫が高水準で推移している。 バターは12月までの期末在庫量が同38.0%増の3万2600トンで、年末の最需要期に向けて不足はない見通し。3月以降消費が急増した家庭用バターの出回り量は引き続き堅調に推移すると推察され、第3四半期末時点で同14.8%増の1万5300トンを見込んでいる。年末の最需要期の安定供給に向けての対応が求められる。業務用停滞で過剰感もあることから、今年度の国家貿易による輸入枠2万トンがどうなるか注視が必要だ。 脱脂粉乳は同13.2%増の7万8500トン。高水準の在庫に対しては政府によって飼料用などで活用する取組み支援も行われ、今後在庫量から約2万トンが削減される見通しだ。 生乳需給は春先の緩和から一転し、9月の最需要期にかけて例年以上のひっ迫基調で推移する見通しにあるが、新規感染者の増加傾向が続いている中、短期的な大幅緩和が再び発生することも考えられる。しかし、3~5月のような状況とは異なることから、処理不可能乳の発生はないと考えられる。増産基調にある酪農生産基盤をより強化していくためにも、減産の回避や継続的需要拡大など、業界一丸となった取組みが期待される。
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September 09, 2020 at 03:31PM
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