かつて仮想現実(VR)に夢中だったことがある。2015年当時、VRへの期待という名の列車は線路の上を全速力で走っており、その列車のファーストクラスの席にいたのだ。 【画像】VRヘッドセット「Oculus Rift S」 そのとき開発者用の粗悪でかさばるヘッドセットを装着すると、まるで女子高生のように笑ってしまった。VRのデモ動画は見たことがあったので、サイバーパンク映画に出てくるスーパーヒロインのようにヴァーチャルの世界へと足を踏み入れることに、胸の高まりを抑えきれなかった。 VRヘッドセット「HTC VIVE」第1号機のためにつくられたデモのなかでクジラがそばを通ったとき、思わず叫び声をあげてしまった。クジラに触れようと手を伸ばしたが、足元に広がる海の暗い深みをのぞき込んだときに気分が悪くなり、吐いてしまった。とにかく、すごい体験だった。
VRについての数々の疑問
当時のわたしたちは、VRにはすべてをよくする力があると信じていた。ゲーム、医療、アート、デザイン、そして乗り物酔いなど、すべてをだ。 そして「Oculus Rift」が発売されると、この期待という名の列車は失速し始めた。Oculus Riftは、遊べるゲームや実用性に乏しかった。値段も法外で、動かすには超高性能のコンピューターも必要だった。ニッチなオーディエンスに向けて発売されたVRは、熱心な支持者以外には手の届かない存在だったのである。 そして2020年のいま、わたしたちはどこにいるのだろうか。Oculusの最新ヘッドセットに購入を検討するだけの価値はあるのだろうか。それとも、VRの最盛期はもう過ぎてしまったのだろうか──。 これらの疑問に答えるのは難しい。だが、その答えの中心にいるのが「Oculus Rift S」であることは確かだろう。
セットアップが簡単に
Oculusは18年以降、着実な進歩を遂げてきた。そしてPCを必要としないオールインワン型ヘッドセット「Oculus Go」と「Oculus Quest」を発売してきた。PCベースのハイエンドなVRは、これらにとって代わられようとしている。少なくとも、わたしはそう思っていた。ところが、それは間違っていたのだ。 Oculus Rift Sに関して最初に気づくのは、オリジナルのOculus Riftと比べてセットアップがずっと簡単であることだ。外付けのセンサーを設置する必要はない。プラグを差し込み、ソフトウェアをダウンロードし、コンビニで働くときと同じようにトレーニングヴィデオを見るだけである。 あとは、何かにぶつからないように安全なスペースの境界を定める(ユーザーが自由に歩き回れるルームスケール体験には6.5×6.5フィート[約2x2m]が推奨されている)。そしてコントローラーのストラップを手に巻き付ける。あまりに簡単で、設定よりヘッドセットとアクセサリーを箱から取り出すほうに時間がかかるぐらいだ。 ヘッドセットを初めて装着するときには、オリエンテーションの映像で基礎を学ぶことになる。テンポよく簡潔に、知っておくべきことをすべて説明してくれる。 ヘッドセットに搭載されたパススルー対応のカメラも大きな改善点のひとつだ。現実世界のどこに障害物があるのか予測しなくても、ヘッドセットのカメラを通して部屋の中を見回すだけでいい。 例えば、手を間違えてテーブルに強くぶつけ続けて爪が紫に変色してしまうようなことがあった場合は(あくまで仮定の話だ)、簡単に境界線を変えることができる。さらにこのカメラは、ヘッドセットをつけたままほかの場所へ行くときにも、大いに役立つ。
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June 07, 2020 at 12:11PM
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