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PCエンジン miniは「ゲームが後戻りできなくなった瞬間」ごと収録された情念のハード - Engadget日本版

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レトロゲームハード復刻の(おそらく)ラストにしてド本命の1つとして、PCエンジン miniがようやく発売されました。

懐かしい......と自分が思うはずがないのは、つい先月末まで『CONTINUE SPECIAL PCエンジン』の原稿執筆にかかりきりだったからです。収録されているタイトル、海外版TurboGrafx-16版ラインアップを除いて、こないだプレイしたものばかりですよ!しかし実機は基本的にブラウン管、ないしコンバーターを通して液晶ディスプレイに繋ぐしかないところを、「直接、50インチの大画面」に繋げるのはなによりのうれしさ。それにCD-ROM2対応ゲームについては格別に有り難い。オリジナルはロード時間が激遅いうえに、物理ドライブ部分はモーターやらが経年劣化するおそれもあり、いつ遊べなくなるかヒヤヒヤだったんですから。

それが職人集団エムツー移植のおかげで、おかしなアレンジはされず、当時の体験は一切の妥協なく再現。CD-ROM2の起動画面はもちろん、スーパーシステムカードの挿入など「画面の外」にあった物理ガジェットまで詰め込まれ、ドット絵のPCエンジンたちが歩き回る演出もある充実ぶり。ちなみに担当したエムツーの松下佳靖さんは「ティンクルスタースプライツ」の開発者としても有名ですね。
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▲ドット絵となったPCエンジン達が歩き回るゲーム起動画面。ファミコン・ディスクシステムのディスくん?

たまたま実機のPCエンジンが手元にあるタイミング(PCエンジン mini発売に合わせた本を作っていたので当然か)だったので、重ね合わせたのがタイトル画像です。メガドライブミニほど実機とのサイズ差を感じないのは当たり前で、当時からPCエンジン本体は家庭用ゲーム機の中でずば抜けて小さかったから。だからこそ、PCエンジンGTやLTといったポータブル版も出しやすかったのかもしれません。

■「連射なし」まで再現しなくても......

そうした「当時の体験」を丸ごと、ハードウェア含めて現代に蘇らせるコンセプトは大いによし。しかし、初代PCエンジン(白エンジン)での「連射なし」までは再現して欲しくなかった......。

リアルタイムに遊んでいた頃から、オート連射できない標準パッドはシューティングに向いてなかったし、そのために連射パッドやジョイスティックを買ってきていたわけです。つまり標準パッドはほとんど使わず、むしろ別売りの外付け連射あり入力装置こそが「当時の思い出」だったんですよ。
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▲シューティングはほぼ連射前提のため、連射パッドはマスト。Nintendo Switch用ホリパッドは「+」ボタンがRUN、「-」がSELECTに対応

ええ、「外付け機器を買ってくるところも再現」という意図もあったのでしょう。でも、あいにく純正のターボパッドは出荷が遅れており、専売のアマゾンでは記事執筆時点では4月末出荷。標準パッドしかなくて指が痛い思いをした辛さまで蘇ってるんですね。さすが周辺機器に定評あるHORI製ハードウェア、連射をするときの手汗まで再現してしまう。

ブツとしてのPCエンジン miniの魅力や細かなこだわりは先行したレビュー記事で的確に描かれており、これ以上付け加えることがないので省略させて頂きます。

■ナムコ黄金期のアーケードが集まったHuカードタイトル

さておきゲーム機の命はゲームソフトであり、PCエンジン用としては2つに大別されるうち、まずはHu カード版ゲームです。

そもそも、筆者は重度のセガファンであり、メガドライブびいき。それでもPCエンジンを買ったのは、Huカードのゲームに大変そそられていたからーー直球で言えば「ナムコ(当時)が参入し、アーケードゲームを次々と移植したから」です。

やっとナムコがメガドラ(略称)に参入したかと思えば、移植度が微妙な『フェリオス』(原作が最新のSYSTEMⅡ基板だけにムチャすぎた)やメジャーとは言えない『デンジャラスシード』など。オリジナルの『レッスルボール』はそれを補って100億万点ほど余りありましたが。

対してPCエンジンは、『ギャラガ'88』や『源平討魔伝』といった第1線級を投入。ナムコのアーケード好きだった自分には『超絶倫人ベラボーマン』だけでハード本体に支払った金額を引いてもおつりが来る、値千金だったのです。しかも、どれも見かけはそこそこ似ているし(PCエンジンの豊富な豊富な発色数のおかげで)移植度もけっこう高かった。
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▲アーケード版の回転・拡大・縮小まわりの演出が削られていたり、魔法もかなり変更されているが、雰囲気は再現している『ワルキューレの伝説』は好移植

昨年、PCエンジン mini収録タイトルが順次発表されていったなかで、自分が最も盛り上がった瞬間がナムコタイトルの5本収録でした。全タイトルが収録とは行かなかったものの、「ワルキューレの伝説」や「スプラッターハウス」を加えた"ほぼ"総力戦とも言えるラインナップ。世に多くのサードパーティーがあるうち全58タイトル中、約10分の1もナムコ色に染まっていれば、もう満額回答というに相応しいのです。

最初に起動したゲームは迷いなくドラスピ(略称)一拓。しかし、手連射はキツい......なので事実上(公式にサポートが約束されたわけではありません)動くという、Nintendo Switch用のホリパッドを取り寄せてからプレイしました。

独立4ボタンに十字カバーを載せていて中央に軸がない構造上、多少の違和感はありますが、当時はこれより操作性が不自由なパッドやスティックはいくらでもありました。そのままならなさに対する補正能力を含めて、当時はゲーマーと呼んだのです。

ドラスピのパターンはほぼ覚えており、PCエンジン版は難度が抑えめになっていますが、「当たり判定が見た目通り」のデカさは昔のゲームならでは。そしてホリパッドは、ホームボタンを押すと状態セーブ・ロード画面が呼び出せるため「難所の前でセーブ、ミスしたらやり直し」も楽々です。

が、なぜかセーブ・ロード画面を抜けると、ボタンのターボ連射設定が外れてしまうプレイヤー泣かせな仕様になっている。そのため、通常ゲーム画面に戻ったらすぐにターボ設定!することに備えて、敵弾が飛んでこないところでセーブという高等テクニック(?)も要するので、簡単になった反面で別の難しさが発生してしまいました。
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▲途中のゲームプレイを保存・読み込みできるステートセーブ/ロード画面。若さと反射神経を失ったPCEゲーマーには強い味方だ

ともあれ気合いと根性、ナムコ愛と攻略パターンの知識(PCエンジン版は最終面で槍の根元が抜けられないのを思い出した......)により、ラスボス・ザウエルをどうにか撃破。そして所要時間は1時間弱......何千円も出してソフトを買った当時、このセーブ・ロード機能がなくて本当に良かったと想います。
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▲ドラスピのクリア画面。アーケード版より難易度は下がっているものの、最終面の意地悪い敵配置(特にバッドアイテムの嵐)はキツかったです

■「後戻りできない」が詰まったCD-ROM2ゲームたち

PCエンジン用ゲームのもう1つのカテゴリはCD-ROM2。当時の最先端メディアだったCD-ROMを採用し、ただ「CD音源が使えること」や「大容量データが扱えること」という技術的な枠組みではありますが、それ以前のゲームとは異質かつ革新的な1つのジャンルとなっていました。

個人的な体験で言えば、かなり無理をしてでも高価なCD-ROM2を買うことに踏み切ったきっかけは、やはり『スーパーダライアス』。初期の傑作と言えば『イースⅠ・Ⅱ』ですが、先にPC版をプレイ済みだったため、家庭用ゲーム機への移植は視野から外れていたのです(すいません)。

原作は、3画面をつなぎ合わせた横長ディスプレイに全身を揺さぶるボディソニックを備えた、当時のアーケード(業務用)ゲームの最高峰です。それを構成する諸要素のなかでも、CD-ROM2が完全再現できるものといえば「音源」のみ。録音したオリジナルのサウンドをそのまま流せるのだから、なんとかなる。

その「ホンモノの音がゲームプレイと同時に鳴る」という体験がどれほど衝撃的だったか。それが当たり前になった今では伝えにくいことですが、CD-ROM2はそんな非日常を日常にしたハードだったのです。

が、PCエンジン本体の表示能力が底上げされたわけでもなく、魚をモチーフとした巨大戦艦がガンガン動かすゲーム本編とCDサウンドとのギャップが際立ってしまう。それでもケタ違いの費用をかけた原作の業務用のハードとの圧倒的な格差を、努力と工夫で埋めようとしたスタッフ。その片鱗が残っている「表示するオブジェクトが増えると画面がちらつく」現象を、あえて緩和せずにそのまま移植したエムツーは絶対に正しい。
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▲ゲームセンターと同じ音が鳴っている(ドルビーサラウンド対応なのでオリジナルよりすごい)衝撃が圧倒的だった「スーパーダライアス」。キングフォスルと久しぶりにご対面

PCエンジン miniに収録されたCD-ROMソフトからは、どれもが「それ以前には後戻りできない」決定的な一歩を踏み出した熱気が匂い立つようです。『イース Ⅰ・Ⅱ』は声優の起用やゲーム本編とビジュアルシーンのシームレスな統合、『スナッチャー』は映画のような演出やむせ返るような莫大な情報量。そして『ときめきメモリアル』はCD-ROM狭しと詰め込まれたデータがキャラクターや世界に生き生きとした命を与え、恋愛ゲームを家庭用ゲームの一角に根づかせてしまった。
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▲『ときめきメモリアル』と『天外魔境Ⅱ 卍丸』は、ゲームの常識を根底から覆して「後戻りできなく」させたツートップ

それら全てが「ゲームにとっての初めて」だらけで、認可を下すプラットフォームメーカー側としても倫理規定などが発展途上だったおかげで、世に出られた演出が多数あります。そのため、それらの表現は現代において技術的には再現がたやすくても、規制のハードルをクリアするのは難しいもの。が、PCエンジン mini収録の『天外魔境Ⅱ 卍丸』は頭から尻尾まで"そのまま"ばかり。え、このシーンはPS2版では......と思い返されることだらけです。

開発のエムツーもさることながら、この「当時のままの表現」を再び世に出して、全責任を引き受けたコナミの覚悟はすごいと言うほかない。そう、当時の文化や空気を含めてのCD-ROM2なんですよ。

■アーケードファンの傷を癒す「near Arcade」

ほかアーケード移植タイトルの「ファンタジーゾーン」と「グラディウス」を原作に近づけた「near Arcade」版は単なる開発者の遊び心ではなく、おそらくもっと重い情念を含んでいます。

なぜなら、この2本はPCエンジンを買うこと=アーケードゲームの忠実な移植が遊べると期待していたのに(おもにHuCard版『R-TYPE』のすさまじいクォリティのため)望みが叶えられなかった代表格なんですから。
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▲現在ではアーケード原作そのままを遊ぶ手段にはことかきませんが、「PCエンジン実機でハードの格差を乗り越えて再現されたファンタジーゾーン」であることに意味があるのです

どちらも8ビットハードへの移植としては悪くないデキで、見かけもアーケードと似ています。それだけに、タイトルの色が違う、音源の音色も大違い。ファミコンの『グラディウスⅡ』ほどかけ離れていれば別ものと割り切れますが、なまじ近いだけに許しがたくなる。

そんな「なぜラストワンマイルで頑張らなかった」の恨みは永遠に残るはずが、PCエンジン miniという「新ハード」のおかげで、奇跡的に挽回するチャンスが得られたことになります。ありがとうエムツー、ありがとうコナミ!!

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March 28, 2020 at 11:36AM
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