アップルのノートPC「MacBook Pro」の最上位モデルが16インチになって生まれ変わった。かなり高額でありながら進化は地味だが、高性能で大画面なマシンを求めているユーザーにとっては、問題が多かった旧モデルの“失敗”を償うだけの製品へと進化している。
TEXT BY JULIAN CHOKKATTU
TRANSLATION BY CHIHIRO OKA
新しい16インチの「MacBook Pro」には、特に不満はない。1カ月ほど試してみた限りでは使いやすいマシンだと思うし、何よりも安定している。過去数年のMacBookに関してこういった評価を目にすることが少ないことを思えば、重要なポイントだろう。
もちろん問題がまったくない製品など存在しないが、それにしても最近のMacBookはトラブル続きだった。バタフライキーボードの問題に加えて動作が急に重くなったりしたほか、バッテリー関連では一部モデルのリコール騒ぎまであった。テック系メディアで手厳しく批判されたこともあり、アップルは謝罪の意味も込めてこの新しいMacBook Proで名誉挽回を図ったようだ。
結果として発売された新モデルは優秀だが、価格は2,399ドル(日本では税別24万8,800円)からと、かなり高めの設定になっている。デザイン面では派手な変更はなく、細かな部分の改良やこれまでの問題の解決といった地味な部分に力が注がれた。こう書くとなんだかつまらなく聞こえるだろうが、何年にもわたる失敗のあとでアップルに必要だったことは、このような地道な努力だったのかもしれない。
新しいキーボードを採用
キーボードを巡っては、2015年にいわゆるバタフライ式が採用されて以来、キートップが外れた、キーが反応しないといった不満の声ばかりが聞かれた。より薄く、より軽くというアップルの飽くなき追求は、キーの移動距離(キーを押したときにどれだけ下に動くか)を最小限に抑えるメカニズムを生み出した。
結果として、従来のシザースイッチ構造のキーボードと比べて大幅な薄型化が可能になったが、故障も増えた。また、隙間にほこりなどが入り込むとキーが機能しなくなる。アップルは当初、問題が生じているのはMacBook全体の「ごく一部」だと言い張っていたが、最終的にはユーザーの苦情を受け入れて無償修理サーヴィスを提供することに決めている。
バタフライキーボードはのちに改良されたが、アップルの評判には傷がついた。これを受けて、次世代キーボードを開発するための「広範な研究と調査」が実施された。ところがアップルはしばらくしてから、自分たちがすでに素晴らしい製品をもっていることに気づき、16インチのMacBook Proの新型にもこれを採用することにした。「iMac」向けの「Magic Keyboard」だ。
新しいキーボードではキーストロークが1mmに増えたことから、キーを押している感覚がきちんとある。ゴムの“足”が付いているので弾力性があり、キートップは以前ほどはぐらつかなくなった。
過去最高のキーボードというわけではないが、ノートPCとしては悪くないだろう。文章を打っていて楽しいし、音も比較的静かだ。そしてこれがいちばん大切だと思うが、これまでのところは特に問題が発生していない。
さらに、これまで「Touch Bar」の一部になっていた「Esc」キーが物理的に復活し、「Touch ID」のための指紋センサーも物理ボタンとして分離された。方向キーはデザインが少し変わって、より明確なレイアウトになっている。
頼れるパフォーマンス
ここ数年のMacBookの大きな問題のひとつに、いわゆる熱暴走があった。CPUに過度な負荷がかかるような作業をすると、本体がかなり熱くなってしまうのだ。この現象は、内部の温度がCPUの適正温度の上限に達するまで続く。熱を下げるために自動的に動作が遅くなるのだが、何か大切なことをしているときにこの状態になると、あまり嬉しくはないだろう。
今回のMacBook Proでは、2018年モデルでパフォーマンスが必要以上に下がるというバグが修正された。放熱の仕組みも刷新され、ファンの改良でエアフローが28パーセント改善したほか、ヒートシンクが大きくなったことで熱の拡散量が35パーセント増えている。もちろん本体が熱くなることはあるし、ファンが動き始めるとうるさいが、これまで使ってきた限りでは動きが遅くなったり止まったりといった事態は起きていない。
例えば、ゲーム「ライズ オブ ザ トゥームレイダー」をかなり長くプレイしたが、ファンがうるさくて音量を上げなければならなくても、パフォーマンスそのものには影響がなかった。また、「Adobe Premiere Pro」で2時間かけて4Kの動画編集をしたときも、動作がもたつくようなことはほとんどなかったと思う。
ただ、今回テストしたのは2,399ドル(日本では税別24万8,800円)のベースモデルではなく、アップルから借りた特別なモデルだ。CPUは第9世代「i9」の2.4GHz・8コア、メモリーは32GB、ストレージは2TB、GPUはAMD「Radeon Pro 5500M」を搭載している。この仕様だと、価格は3,899ドル(約43万円)にもなる。
ちなみに、さらに性能をよくして高額にすることもできる。メモリーを64GBにしてストレージを8TBまで増やすと、6,099ドル(約67万2,000円)というとんでもない価格のマシンが完成するのだ。
他社製品と比べてみよう。例えば、デルの「XPS 15」とレノボの「ThinkPad X1 Extreme」の第2世代を最高のスペックにしても、MacBook Proの最上位の性能までもっていくことはできない。だが、価格はMacBook Proのベースモデルよりわずかに高いだけだ。また、他社のノートPCはパーツを交換することもできるが、アップルのマシンはあとからいじることは想定していない。つまり、MacBook Proの場合は購入時だけでなく、アップグレードや修理にも費用がかかる。
サイズ感はいいが、ずっしりくる
次に、大きさと重さを見てみよう。新型MacBook Proは16インチで、もちろん15インチのモデルよりは大きい。バッグに入るという意味ではぎりぎりのサイズだが、重さはそれほどでもない。いずれにしろ、これまで15インチを使っていたのであれば、違いはそれほど気にならないだろう。それでも13インチモデルから買い換えると、机が狭くなったと感じるはずだ。
とはいえ、仕事中に急に移動しなければならないような場合を考えると、16インチモデルは最良の選択肢ではない。2kgという重さは、さすがに腕に負担がかかる。ただ、個人的にはサイズ感については特に不満はない。
アップルはかなり長い間、製品の軽量化に心血を注いできたが、最近はその姿勢に変化が出ている。例えば「iPhone 11 Pro」はバッテリー寿命が延びた代わりに、1世代前のモデルより厚く重くなった。MacBook Proに関しては、軽量化をあきらめたおかげでキーボードと熱管理システムがよくなっている。
スピーカーの音質が素晴らしい
新しいキーボードとパフォーマンスが改善したこと以外の特徴を紹介しておこう。スクリーンはベゼル(画面の枠)がさらに細くなり、他社に先駆けてフレームレスディスプレイを採用したデルの「XPS 13」の隣に置いても見劣りしない。
解像度は3,072×1,920ピクセルで、15インチだった前モデルの2,560×1,600ピクセルよりも鮮明になった。色描写は正確でコントラストは鮮やかだし、とても明るくすることもできる。天気のいい日に屋外で使ってみたが、画面が見づらいことはなかった。
ほかの部分はMacBookの既存モデルによく似ている。トラックパッドは軽いタッチでもきちんと反応し、大きさも十分で非常に使いやすい。ただ、このクラスの他社のノートPCと比べて最大のお薦めポイントはどこかと聞かれれば、スピーカーだ。
最近はほとんどの人が普段はヘッドフォンをしているし、たかがノートPCのスピーカーをここまで絶賛するなんて、ばかげていると思われるかもしれない。それでもMacBook Proの6スピーカーサウンドシステムは、ノートPCのスピーカーとしては最良であると断言できる。これを知ってしまうと、ほかのノートPCではもう満足できないだろう。
サウンドはダイナミックで、小さな部屋ならこれだけで十分に音楽を楽しめる。特に動画編集をするときに便利で、ヘッドフォンがなくても音がどのように聞こえるか確かめられるのは魅力だ。「スタジオ品質」を謳ったマイクも優秀で、いつも使っているBlue Microphonesの「Yeti」に匹敵する性能だった。
バッテリーに関しては、Slackやネットサーフィン、メールなどが中心であれば1日は余裕でもつが、Premiere Proで動画編集を2時間やったときには、80パーセントだったバッテリー残量が一気に22パーセントまで減った。ただ、電源アダプターは持ち運びに問題ない大きさだし、96Wなので充電にはそれほど時間はかからない。
改良が必要な点も残る
ひとつだけ不思議なのは、これだけすべてがよくなったのに、HDカメラはそのまま放置されている点だ。MacBookは全モデルで指紋認証の「Touch ID」が採用されているが、近いうちに「Face ID」に切り替わるという噂がある。だとすれば、このカメラでは困るはずだ。MacBook ProでFace IDが使えるようになれば、顔認証を採用するWindowsマシンと互角に渡り合える。それだけでなく、「iPad Pro」のようなプロ向けの上位機種との整合性もとれるだろう。
さらに、Touch Barの問題が残っている。音量や明るさだけでなくアプリによってさまざまな機能を割り当てられる(例えば「Safari」ならここからウェブ検索ができる)と言われれば便利そうに思えるかもしれないが、実際の使い勝手は最高というわけではない。Touch Barが導入されてからすでに3年だが、いまだに定着していないことを考えると、物理ボタンのほうがいいのではないか。
最後に付け加えるとすればポートだ。MacBook Proには「Thunderbolt 3(USB-C)」が4つとイヤホンジャックがある(イヤホンジャックが残されたことは個人的には驚きだ)。これで特に不足があるわけではないが、プロ向けのモデルであることを考えれば、SDカードスロットや「USB-A」用のポートも欲しいところだ。
価格を正当化できるか
不満な点をいくつか並べてみたが、1カ月ほど使ってみた限りでは相当に満足できるマシンだと思った。あとは購入すべきかという問題だけだろう。お金が十分にあって、アップル史上で最大かつ最高性能のノートPCが欲しければ、16インチのMacBook Proは間違いなく“買い”と言える。
ただ正直な話、ほとんどの人にとっては必要以上に高性能ではないだろうか。今年はおそらく13インチのMacBook Proの新型が発売されるが、同じように熱管理システムがよくなるだろうし、バタフライキーボードが廃止されることもほぼ確実だ。また、将来的には「MacBook Air」にも、こうしたアップグレードが適用されるかもしれない。
小型で低価格なノートPCを探しているなら、そしてWindowsマシンに乗り換えるつもりはないなら、もうしばらく待つことをお勧めする。
◎「WIRED」な点
ついにキーボード問題が解決した。パフォーマンスはさすがで、スピーカーも素晴らしい。画像編集などをするときは、16インチのスクリーンは便利だ。バッテリーは軽めの作業だけなら十分にもつし、充電も早い。
△「TIRED」な点
値段が高い。大きくて重い。キーボードがよくなったのは確かだが、画期的な変更はない。「Face ID」導入の話はどうなったのだろう。そして既存モデルと同じようにポートが足りない。
※『WIRED』によるアップルの関連記事はこちら。
SHARE
"製品" - Google ニュース
March 15, 2020 at 05:30PM
https://ift.tt/2IK8NmC
アップルの16インチ版「MacBook Pro」の進化は地味だが、“名誉挽回”に成功している:製品レヴュー|WIRED.jp - WIRED.jp
"製品" - Google ニュース
https://ift.tt/38fgThV
Shoes Man Tutorial
Pos News Update
Meme Update
Korean Entertainment News
Japan News Update
Bagikan Berita Ini
0 Response to "アップルの16インチ版「MacBook Pro」の進化は地味だが、“名誉挽回”に成功している:製品レヴュー|WIRED.jp - WIRED.jp"
Post a Comment