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プロダクトではなく「ライフスタイル」を売る:D2CブランドAllbirdsは、日本のリテールに変革をもたらすか|WIRED.jp - WIRED.jp

リテール業界に地殻変動を起こしたビジネスモデル「D2C(Direct to Consumer)」。その震源地・米国から初めて日本に進出してきたD2Cブランド「Allbirds」は天然素材を使ったサステナブルな製品で、消費者から支持を集める。D2C黎明期である日本市場で、AllbirdsはいかにD2Cモデルを実装しようとしているのか。D2Cブランドビジネスに精通するTakramディレクターの佐々木康裕が、Allbirds共同創業者のジョーイ・ズウィリンジャーに訊いた。


 

佐々木康裕:まずお聞きしたいのですが、なぜ日本を出店先に選ばれたのでしょうか?

ジョーイ・ズウィリンジャー(JZ):これまで日本に来る機会は何度もあり、ずっと進出したいと思っていた国のひとつでした。

日本文化も知っているし、高く評価しています。Allbirdsのデザイン哲学も、「要らない要素はすべて取り除き、機能だけを形に反映する」という日本の美学に則っています。それによって、機能が大きな意味をもつ、シンプルに見えながらも際立ったデザインが出来上がるのです。

また、わたしたちは日本製品の品質の高さや職人技も尊敬しています。だからこそ、最高品質の製品を用意して、日本市場に進出したかった。2016年3月の創業以来、シグネチャーモデルである「ウールランナー(Wool Runners)」には30以上の改良を施してきました。ほかの製品にも性能強化や快適性の向上、新素材の採用やデザインの変更など、さまざまな改良を行なっています。これらを通じて、会社として日本進出の準備をしてきたのです。

佐々木:Allbirdsはこれまで、ニュージーランドや米国、英国、ドイツ、中国、カナダ、オーストラリアなど、さまざまな国に進出していますね。他国の市場と比べて、日本市場のユニークさはどこにあると思われますか?

JZ:日本はいま興味深い時代を迎えています。持続可能な開発目標(SDGs)に対する日本政府の注目度が増し、特に若者の間でサステナビリティへの興味も高まっていますよね。

また、米国に比べてD2C市場がまだ若い。アマゾンや楽天といったプラットフォームはありますが、D2Cスタイルはそれほど普及していません。だからこそ、Allbirdsはこれから日本で普及していくであろうD2Cブランドの最前線にいたいと思っています。D2Cモデルとして日本に進出するには、非常に面白い時期なのです。

米国や英国に比べて、日本のeコマース市場はまだ小規模です。米国ではの20パーセントが、英国では30パーセントがオンラインで売られています。日本はまだ1桁台ですよね。

世界規模で見れば、Allbirdsの靴の約80パーセントがオンラインで売られていますが、日本ではまず50パーセントを目標にしています。それでも、日本市場のほかのリテールと比べるとかなり高いはずです。

いま米国でD2C企業が増えている背景について、Allbirds共同同業者のジョーイ・ズウィリンジャーは、Shopifyのような企業が生まれ、D2Cに必要なテクノロジーがユビキタスになり、自社にテクノロジーがなくとも創業初期から直接消費者とつながれるようになったことにあるのではないかと話す。

コミュニティーが醸成する世界観

佐々木:Allbirdsが米国で人気を博した理由のひとつとして、米国人の気候変動やサステナビリティへの関心が高いことが挙げられます。ただ、日本人は相対的にはサステナビリティというトピックにそこまで関心がありません。サステナビリティはAllbirdsの核となる要素のひとつだと思いますが、日本ではどのように消費者とコミュニケーションをとっていこうと思っていますか?

JZ:Allbirdsが米国で成功できた理由は、サステナビリティではなく製品の品質です。同じことが日本でも言えるのではないかと思います。わたしたちは製品のあらゆる面でサステナビリティを意識していますし、それが成功に貢献するとも思いますが、グローバルなサステナビリティが日本で特に刺さるものだとは思っていません。ただ、Allbirdsのサステナビリティという要素は、日本でもポジティヴに働くのではないかと期待しています。

日本は自然との結びつきが強く、日本の消費者たちはAllbirdsがデザインに自然を取り入れている点を気に入ってくれるのではないかと思っています。Allbirdsが天然素材を使うのは、自然のほうが優れているからで、サステナビリティだけではなく、自然の質を重視しているのだという点を押し出していこうと考えています。

佐々木:Allbirdsはプロダクトブランドというよりは、ライフスタイルブランドなのだと感じます。Allbirdsの靴を履いていると、コミュニティに属しているような気分になるし、アーバンライフを楽しんでいると感じるんです。Allbirdsは、消費者たちにどんなライフスタイルを送ってほしいと思っていますか?

JZ:素晴らしい表現ですね。わたしたちの顧客が重視するのは「ヘルス&ウェルネス」、世界への興味という意味での「旅行」、デザインやエンターテインメント、ジャーナリズム、テクノロジーなどにおける「クリエイティヴさ」です。

Allbirdsの顧客を考えてみると、この3つのどれかに当てはまる人が非常に多いように感じますし、これがコミュニティ内で共有されている要素であるように思います。原宿店を含め、世界中の店舗を通じてそうしたコミュニティの感覚を育てていきたいと思っています。

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佐々木:それはイヴェントなどを通じて、という意味ですか?

JZ:そうですね。価値の共有や、自然に関連した何かをするといったことでもあります。2020年はもっといろいろなことをしていきたいと思っていますし、わたし個人が力を入れてやっていきたいことでもあります。

佐々木:この店舗はモノを購入するだけでなく、人と人をつなげるための場所でもあるということですね。

JZ:もちろんです。

直接顧客とコミュニケーションをとる流通モデルだけでなく、世界観を前面に打ち出したブランディングもD2Cブランドの特徴である。Allbirdsがその世界観をいかに出店国のカルチャーとチューニングするかが注目だ。

Allbirdsが描く未来予想図

佐々木:今後Allbirdsをどのように発展させていきたいと思いますか? 5年後、10年後のAllbirdsは、きっといまのAllbirdsとは違う姿をしているように思うのですが。

JZ:まず、マテリアル・イノヴェイターになりたいです。2025年までには、素材のイノヴェイションをいくつも起こしているでしょう。そうしたイノヴェイションが、思わず試してみたくなるような、さらに面白くユニークな製品につながっていくと思います。素材のイノヴェイションがAllbirdsの核であり、競争での優位性をもたせるエンジンでもあるのです。みんなAllbirdsを真似しますし。

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また、よりグローバルになることも目標です。世界各国に進出し、店舗のネットワークを通じてコミュニティをつなげたいと思っています。現在でもAllbirdsは世界20億人規模の市場に送料無料、返品無料で商品を提供していますし、アフォーダビリティのために高すぎない価格設定もしています。これをさらに拡大する予定です。

また企業文化の醸成にも力を入れます。現在Allbirdsには500人の社員がいますが、5年後、10年後には1,000人くらいまで伸びるでしょう。目標は、ここが自分の居場所だと感じられるような会社をつくり、社員が目的や情熱をもてるような場所にすることです。

佐々木:アパレルブランドのなかには、製品を返却するシステムを採用し始めているところもあります。例えばアディダスは、消費者に履き古した製品を返却してもらい、そこから新たな製品をつくる取り組みを始めました。いくつものブランドがこうしたリサイクルプログラムに興味を示していますが、Allbirdsはどうでしょう?

JZ:製品を回収してリサイクルする循環型プログラムは、うまく回れば素晴らしいシステムですが、非常に難易度の高いタスクです。企業のなかには、製品を返却してもらっても捨ててしまうところもあります。

Allbirdsはそういった信憑性のないマーケティングをするつもりはありません。だからいまは、素材の調達や製品の生産プロセスにおける環境への負荷を最低限にすることにフォーカスしています。

Allbirdsの靴のアッパー部分は生分解可能で、使われている素材は空気中の二酸化炭素を封じ込めています。わたしたちがしているのはギミックマーケティングではなく、信憑性が高く環境にも優しい施策なのです。


 

Allbirds誕生前夜

佐々木:以前、ポッドキャストでゴミ収集企業について語られていましたよね。また、バイオテックやマテリアルにおいて長い経験もおもちです。こうした経験は、現在の仕事にどんな影響を与えていますか? そもそも、なぜ再生テクノロジーの分野に興味をもたれたのでしょう?

JZ:大学卒業後、ビジネスに目が向きました。ただ、お金を生むだけのビジネスには興味がなかった。ポジティヴな何かをしたかったんです。それで周りを見渡してみて、わたしたちが直面している最大の問題は気候変動や環境問題であると感じたんです。それがきっかけで、まずは投資から始めました。

その次は、微細藻類を扱うSolazyme(現Terravia)という企業に入社しました。Solazymeは、微細藻類を使った石油の代替品を開発しており、エネルギー部門と化学製品ビジネス部門に分かれていました。わたしの担当は後者です。技術は素晴らしく、消費者たちもこの技術を使った製品を欲しがっていた。でも、その中間にいるはずのブランドがまったく興味をもたなかったんです。

そこで、むしろ自分が消費者に近づき、ブランドの側になるほうが賢いのではないかと考えました。環境によいマテリアルを使って、何か面白いものを売ってみようと。そんなときに、共同創業者のティム・ブラウンと出会ったのです。わたしにとっては願ってもないチャンスだと思いましたね。

過去のマテリアルサイエンスの経験がいまの仕事にどんな影響を与えたかについては、いい例があります。ティムのデザインセンスは素晴らしく、消費者のトレンドもよくわかっていた。あとは、それを素材とどうつなげるかだけでした。

Allbirdsの製品には、ペットボトルをリサイクルした素材やトウゴマオイル由来のインソール、バイオプラスティックなどが使われています。これらはすべて環境負荷を正しく考慮した結果ですが、その一つひとつがこれまでの仕事と直接結びついているんです。

佐々木:より大きなインパクトを生むために、自社の知識や特許を他社と共有することを考えたりはしますか?

JZ:それについてはいつも議論しています。わたしたちは「SweetFoam」という素材をブラジルの企業と共同開発しましたが、この素材のつくり方はオープンソースとして公開しています。生産プロセスでの二酸化炭素吸収量が排出量を上回るEVA素材で、もしほかの企業がこれを採用すれば大きなインパクトを与えるでしょう。

オープンソースがあらゆるケースで最適解になるとは限りませんが、多くの場合はそうです。コレクティヴアクションとして、ほかの人々が真似できるような新基準を打ち立てているんです。

「Direct to Consumer」の名の通り、中間業者が介在せずに顧客に直接製品を届けられ、製造工程の透明性が高いことも消費者から支持が集まる理由である。

佐々木:靴の生産プロセスは、ほかの企業とどのような違いがありますか?

JZ:これまで靴のメーカーは年に2度ラスヴェガスに行き、そこでリテーラーから注文を受けます。「これを何足くれ」「これは緑がいい」「ここを赤に」など。それを反映して、出荷するわけです。しかし、Allbirdsは消費者から毎日フィードバックを受け、毎週のミーティングで製品やウェブサイトに改良を加えています。日々継続的に改良が加えられるプロセスが従来の企業とは大きく違う点だと思います。

D2Cのエコシステム

佐々木:Allbirdsはスタートアップですが、すでに「B Corp(B Corporation)」認証を受けていますよね。日本にもD2Cスタートアップは多くありますが、そうした企業にB Corp認証をとる気はあるかと聞いてみると「まだスタートアップだし、リソースがないのでそこまで手が回らない」という答えが返ってきます。なぜ早い段階からB Corp認証をとる決断をしたのでしょう。

JZ:B Corp認証をとらない理由がないからです。今日、長期的によいビジネスを築こうと思ったら、企業は株主に利益をもたらす以上の何かを消費者に求められていることを念頭におかなくてはなりません。わたしたちは「パブリック・ベネフィット・コーポレーション(公益企業)」という企業形態でビジネスを始めました。提供する公益は環境保全です。

われわれの使命は、サステナブルなビジネスをつくることだけではなく、社員を大切にし、環境を大切にすることです。そうしていれば、消費者も応えてくれると信じています。そして、この姿勢を公益企業としての法的文書とB Corp認証によって裏付けることは、長期的にみて賢い投資でした。しかも、金銭的なコストもほとんどかかりません。長く生き残りたいスタートアップは、みんなこうした視点をもつべきだと思います。

佐々木:日本の起業家や投資家で、企業にB Corp認証を受けるコストを許容するところは少ないような気がします。

JZ:なるほど。米国の投資家はその点では非常に協力的です。シードステージの投資家から、大手ファンドまでみんなです。

佐々木:わたしは07〜08年までシリコンヴァレーにいましたが、こうしたトピックが話題にあがることはありませんでした。マインドセットが変わったように感じます。

JZ:07年はグリーンテクノロジーが大きな話題になった年でしたね。石油価格が上がり、グリーンテクノロジーにみんなの目が向いた。でもひとたび石油価格が戻ると、もう誰も見向きもしない。

ところが、再び石油価格の上昇と下落が起きると、グリーンテクノロジーへの興味は価格下落後も失われませんでした。さらに人々の気候変動への理解やムーヴメントも広がりました。消費者の理解が広がるとともに、投資家もそれに続いたのでしょう。政治家はまだ続いてはいませんが、間もなく加わると思います。それが10年前と現在との違いでしょう。

ステイクホルダーキャピタリズム(ステイクホルダー資本主義)vsシェアホルダーオンリーキャピタリズム(株主オンリーの資本主義)がルネサンスを起こしているんです。そこにAllbirdsも加わりたいと思っています。


 

佐々木:フィットネス分野のD2Cブランド、ペロトン(Peloton)の最高経営者(CEO)ジョン・フォーリーはあるプレゼンテーションで、ブランディングエージェンシーのPartners & Spade(現Mythology)がブランドの成長を助けたと言っていました。Allbirdsはそのようなブランディングエージェンシーと提携していますか?

JZ:Mythologyにはストアデザインをしてもらいましたし、ほかの企業にもブランディングを手伝ってもらっています。Mythologyのチームは小規模でしたが、本当にクリエイティヴな人たちで、Allbirdsの顧客のことも非常によく理解していました。すべてを社内で完結することは不可能なので、ときには社外のクリエイティヴたちの手を借ります。

佐々木:D2Cのエコシステムがあるか否かが、米国と日本の大きな違いなのでしょうね。

JZ:そうですね。そこが日本ではわたしたちの差別化のポイントになるのではないかと期待しています。Allbirdsが成功すれば、日本でももっとエコシステムが出来上がってくるかもしれませんね。

佐々木:最後に、D2Cはいま日本でブームになっていますが、D2Cスタイルの最先端をいく企業のひとつとして、起業家たちにアドヴァイスはありますか?

JZ:繰り返しになってしまうのですが、社会に貢献すること、そしてそれを信じ続けること。10年後も同じことをしているとして、社会に何かポジティヴな影響を与えていると感じられなければ飽きてしまいますからね。真の目的をもつことは必要不可欠です。

それから、販売モデルもプロダクトと考えること。D2Cモデルはまだ使える戦略ではありますが、それだけでは不十分です。

最後に、差別化すること。将来の利益のために投資すること。イノヴェイションがなければ成功しません。いまの時代に起業家として成功するには、この3つすべてを念頭に入れていなくてはなりません。

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