宇宙航空研究開発機構（JAXA）は20日、小惑星探査機「はやぶさ2」について、地球へ帰還するための主エンジン「イオンエンジン」の長時間連続運転に成功したと発表した。長時間運転は2回予定しており、今回は1回目。4台あるエンジンはいずれも計画通りに稼働することが確認された。「イオンエンジンはすこぶる良好、探査機もすこぶる順調」（久保田孝・JAXA宇宙科学研究所研究総主幹）という状態で、帰還に向けてさらに前進したといえる。
はやぶさ2は、昨年11月に探査していた小惑星リュウグウを出発し、イオンエンジンの試運転を経て、出発から今月までにイオンエンジンを計881時間運転した。その結果、探査機は秒速100メートル減速した。運転は、4台あるエンジンのうち3台を使い、さらに「いざ」というときのバックアップ用に温存してきた1台のエンジンも性能通りに機能することを確認した。今月4日まで運転した後、探査機の軌道を詳細に分析し、18～20日まで微修正の噴射をしたという。
はやぶさ2は今年5～9月に2回目のイオンエンジン長時間連続運転を実施し、12月に地球近傍へ帰還。リュウグウで着陸した際に採取した物質が入っているとみられるカプセルを、オーストラリアの砂漠へ投下する。
イオンエンジンは、燃料のキセノンガスを電子レンジでおなじみのマイクロ波を使って加熱し、イオンと呼ばれるプラスの電気を帯びた粒子にしてから、マイナスの電気を帯びた電極に引き寄せられるのを利用して噴射し、推進力とする。地上では1台当たりやっと1円玉を動かせるくらいの力しかない。空気抵抗のない宇宙空間で続けて運転すると、探査機を大きく加速させることができ、少ない燃料で遠くの天体への運転が可能になる。
この日朝まではやぶさ2の運用をしていたというイオンエンジン担当の細田聡史・JAXA研究開発員は「リュウグウに滞在した1年半はイオンエンジンを使っていなかった。さらに、バックアップのエンジンは、打ち上げ後の性能チェック後、一度も動かしていなかった。だから、本当にきちんと動くかが心配だった」と振り返る。リュウグウでの着陸で飛び散った砂がエンジンに入り、高い電圧をかけたときにトラブルを起こす恐れもあったが、運転を開始してみると問題なかったという。その結果、4台のエンジンすべてが良好な状態で地球を目指せることになった。
細田さんは「次の長時間運転は、地球帰還の時期が決まっていて、時間的な余裕がないシビアな運用になる。宇宙なので何が起きるか分からないが、より慎重に取り組みたい。（天体の試料を地球へ持ち帰る）サンプルリターンの醍醐味（だいごみ）は、我々に向かって探査機が帰ってくること。イオンエンジンには、ピストンもタービンもないのに『エンジン』という名前がついている。これは未来へ走るのが『エンジン』だからという思いを込めた。人類の未来のためにも必ず地球へ帰らせたい」と話した。
カプセル投下後は次の天体へ
はやぶさ2は地球へカプセルを投下した後、探査機の状態に問題がなければ、別の天体を目指すことを計画している。このため、地球帰還時に残っていると考えられる燃料を推計し、それで探査機がどこまで行けるかを検討した。そして、地球から比較的近い約300の小惑星のうち、地球帰還後の約10年で到達が可能なものが数十個あることが分かったという。
しかし、小惑星によっては軌道に関する情報が乏しいものもあり、確実に行くために正確な軌道が分かっているもの、科学的に探査の意味がありそうなものに絞り込む作業を進めるという。プロジェクトチームの吉川真・ミッションマネジャーは「小惑星ではなく惑星や遠方の天体を目指す可能性もある。それらも含めて何をするのがミッションとして有意義かを議論していきたい」と話した。対象を絞り込んだ後に、必要な探査期間、コストを踏まえて実施の可否を決めるという。【永山悦子】
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February 21, 2020 at 03:45AM
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